書籍目録

『日本の昔噺 舌切り雀』

ジリアクス訳

『日本の昔噺 舌切り雀』

スウェーデン語訳 1896年? 東京刊

Zilliacus, Konni (trs.)

Sparfven med den Klippta Tungan. PÅ SVENSKA AF KONNI ZILLIACUS. (JAPANESISKA SAGOR)

Tokyo (10 Hiyoshicho / Helsinki (Helsingfores), T. Hasegawa’S TRYCKERI /Wentzel Hagelstams Forlag, Dated Meiji 18 (1885), but it must be wrong, it would be ca 1896. <AB201715>

¥151,200

Edition in Swedish.

11 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 22 pages), bound in Japanese style, spine covered and silk tied.

Information

極めて珍しいスウェーデン語ちりめん本

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。元々は日本を訪れた外国人の土産用、ないしは外語学習用に作成されたと言われていますが、その実態や刊行されたタイトルがどれほどあったのかということについては、未だ熱心な研究が続いています。
 
 ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒しています。特に、日本の昔噺を英語を中心に各国語に訳したJapanese Fairy Tales シリーズは、訳者に著名な御雇外国人や、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲, 1850 – 1904)といった文学者、チェンバレン(Basil Hall Chamberlain, 1850 – 1935)といった東大随一の日本研究科をそろえたことから、単なる嗜好品の水準をはるかに越えた内容となりました。英語版を皮切りに、フランス語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語、イタリア語、ロシア語、そして今回ご案内するスウェーデン語と各国語に訳されたことからもその人気のほどが伺えます。
 
 ちりめん本は、近年様々な角度から再評価が進んでおり、国内研究機関で所蔵が充実しつつあります。また、個人のコレクターも増えつつあるようで、値段も高騰化の傾向にありますが、最も多く刊行された英語版を始めとして著名なタイトルは現在でも比較的入手が容易です。その一方で、それほど著名でないタイトルや、多くの部数が刊行されなかった言語のものについては、現存数がきわめて限られていることから、発見することがきわめて難しくなっています。また、その存在自体が未だもって確認されていないタイトルも多くあると言われています。
 
 今回ご案内するものは、そうした発見することがきわめて難しくなっている部類に入る大変珍しいもので、長谷川による日本昔噺シリーズのスウェーデン語版『舌切り雀』です。スウェーデン語版は、わずか3タイトルしか刊行されなかったと言われており、『桃太郎』、『舌切り雀』、『小太り爺さん』だけが確認されています。スウェーデン語版を一部でも所蔵している国内研究機関は、国会図書館、国際交流基金図書館、京都外国語大学図書館のみではないかと思われます
 
 その訳者は、本書に明示されているようにジリアクス(Konni Zilliacus, 1924 – 1905)で、文学者というよりもロシア革命に大いに影響を受けフィンランド独立運動に身を捧げた活動家として著名な人物です.日本でも『坂の上の雲』において、陸軍将校の明石元二郎(1864 – 1919)が、ロシア革命支援工作の一環として、フィンランド革命党を率いていた彼を支援したと描かれていることで知られる人物です。彼はロシア革命に関する書物を著す一方で、『絵入り日本研究(Japanesiska Studier och Skizzer. 1896)』も著しており、日本について好意的に研究をしていたものと思われますが、長谷川との接点がいかなるものであったのかについては、まだよくわかっていません。
 
 本書は、その奥付に「明治十八年 八月十七日出版御届」とありますが、恐らくこれは正確なものではなく、英語版やその他の版と同じ奥付を元にしたために表記されているものと思われます。住所地として、長谷川が明治23(1890)年から同34(1901)年の間に居を構えた日吉町十番地とありますので、明治18年(1885年)に本書が刊行されたとは考えにくいと言えます。スウェーデンの刊行物目録(Svensk Bok-Katalog Jamte Musikforteckning for Aren 1806 – 1900)に1896年に刊行されたものとして記録されていると言われており、概ねこのころの作品とみて間違いなさそうです。
 
 まだ研究があまり進んでいないと思われる貴重なスウェーデン語版ということでも大変貴重ですが、本書は状態も非常によく、土産物として売られたちりめん本にありがちなシミや痛みは、裏表紙のわずかなシミ以外には本文中にもほとんど見られず、綴じ紐もしっかりしており、最上とも言える状態を保っていることから、展示やデジタル化での公開にも最適な貴重資料と言えるでしょう。

なお、2018年は、スウェーデンと日本との国交樹立150周年となる記念の年でもあります。