書籍目録

『ローレンシア:日本のある物語』

フラートン

『ローレンシア:日本のある物語』

独訳初版 1862年 ウィーン刊

Fullerton, Lady Georgiana.

LAURENZIA. Eine Erzählung aus Japan. Aus dem Englischen der Lady Georgiana Fullerton.

Wien, Mechitharisten-Congregations-Buchhandlung, 1862. <AB2017140>

Sold

First edition in German.

8vo, Title, 2 leaves(Vorwort), pp.[III], IV-VI, [7], 8-236, Contemporary half calf on marble boards.
タイトルページに旧蔵者による押印あり。

Information

幕末から明治の初頭にかけて欧米で読み継がれた詳細な考証に基づく16世紀日本のキリスト教を描いた小説

本書は、16世紀日本におけるキリスト教界と殉教を題材にした小説です。作者は、イギリスの小説家フラートン(Lady Georgiana Charlotte Fullerton, 1812 - 1885)で、34歳の時にローマンカソリックに改宗しています。

 彼女は本書の序文において、この物語は、何か特定の史実に基づいて歴史を描いているものではないことを断りつつも、16世紀における日本へのキリスト教伝道と、日本のクリスチャンの信仰心からは多くのことを学びうるとしています。特定の史実に基づかないとは言いつつも、フラートンは本書を著す上で、シャルルボア(Pierre François Xavier de Charlevoix, 1682 - 1761)の『日本史(Histoire du Japon. 1736)』をはじめとして、日本におけるキリスト教伝道と迫害の歴史に関する先行文献をかなり参照にしたようで、本書の末尾に設けられた脚注では、キリシタン大名や秀吉といった人名、日本の地理情報や基本的な歴史的な事件といった事柄を説明しています。

 物語は、ある日本人が信仰に目覚めてキリシタンとなり殉教するまでを描く典型的な殉教物語ではありますが、開国したばかりの日本に対する注目が集まっていた時期ということもあってか、繰り返し再版されて1880年代まで読み継がれたほか、ドイツ語など他言語への翻訳版も出現しています。

 本書はこのドイツ語版初版に当たるもので、原著刊行の翌年1862年にウィーンで刊行されています。冒頭の翻訳者による序文では、改めて日本のキリスト教伝道に対する注目と理解を深める必要性とこの翻訳の意義が説明されています。翻訳自体は英語版原著に即した忠実なものと思われ、本文の後にある脚注も含めて翻訳がなされています。ドイツ語版だけの特徴として、1862年に列聖された26聖人のうち、フランシスコ会士であったとされる23人についての記述が末尾にあることが挙げられます。なお、国内の研究機関では、このドイツ語版については全く所蔵がないようです。

タイトルページ。右上には旧蔵者による押印あり。
翻訳者による序文。当時の日本の状況に対する理解が垣間見えて興味深い。
本文冒頭
原著にあった脚注も漏らさず翻訳されていて、ドイツ語圏の読者にも16世紀に日本に関する基本情報を伝えている。
原著にはないドイツ語版だけの内容である、1862年に列聖された26聖人のうち23人のフランシスコ会士に関する記事。
当時施されたと思われる半革装