書籍目録

『豊後の王シヴァン:日本の物語:王子教育の模範』

[ボーモン夫人] / (大友宗麟)

『豊後の王シヴァン:日本の物語:王子教育の模範』

全2巻(合冊揃い) 1754 / 1758年 ロンドン[パリ]刊

[Beaumont, Jeanne-Marie Leprince de.]

CIVAN, ROI DE BUNGO, HISTOIRE JAPONNOISE.

Londres(London)[Paris], Jean Nourse, M. DCC. LIV. (1754) / M. DCC. LVII.(1758). <AB2022118>

Donated

2 parts bound in 1 vol.

8vo (9.5 cm x 16.2 cm), Première partie: Title., 3 leaves, pp.[1], 2-145, 246(i.e.146), 147-250. / Seconde partie: Half Title., Title., pp.[1], 2-178, Slightly later half leather on marble boards.
装丁のヒンジにやや傷みが見られるが概ね良好な状態。第2部のタイトルページであるべきタイトルページが第1部のタイトルページ(1758年表記)となっている。[NCID: BB18102464(1758 ed.)] [Laures: JL-1758-2(1758 ed.)]

Information

『美女と野獣』も手がけたことでも知られる著名作家が、大友宗麟をモデルとして理想の君主像を描き出した異色のフィクション作品

 本書は、日本を題材としたフィクション作品で、「豊後の王シヴァン」こと大友宗麟を主人公にして、模範的な君主のあるべき姿を提示するという「君主の鑑」に類する作品として著されたものです。本書タイトルページに著者名は明記されていませんが、本書刊行の4年前、1754年に刊行された初版本にはボーモン夫人(Jeanne-Marie Leprince de Beaumont, 1711-1780)であることが記されており、彼女の作品であることがわかっています。ボーモン夫人は児童教育書や批評雑誌の刊行を主宰し、自身も多くの作品を残した著作家として知られており、特に現在も非常に親しまれている『美女と野獣』をはじめとした童話作品を数多く手がけたことでも著名です。

 本書初版本はボーモン夫人がロンドン滞在時に執筆、刊行されたものと思われ、そのためフランス語の著作でありながらロンドンで刊行されています。出版社のヌース(Jean(John) Nourse, 1705 - 1780)は、18世紀のロンドンを代表する出版社の一つで、英語作品だけでなく本書のように数多くのフランス語文献やその英訳作品も手掛けていました。『豊後の王シヴァン』は刊行直後から話題になったようで、初版刊行と同年の1754年に早くも海賊版と思われる異刷が刊行されましたが、この海賊版では著者ボーモン夫人の名前が削除されており、刊行地をロンドン出版社をヌースと謳っているものの、実際にはパリで刊行されたのではないかと考えられています。さらに1758年にはこの海賊版の第2版ともいうべき異刷が刊行されており、この1758年版では副題「王子の教育の模範」(TABLEAU DE L'ÉDUCATION D'UN PRINCE)が付け加えられました。この異刷もやはり著者であるボーモン夫人の名前が明記されておらず、また版組等も1754年の海賊版と同じ構成となっています。したがって、『豊後の王シヴァン』4年の間に少なくとも3種類の版が刊行されたことになり、この作品が少なからぬ話題を呼んだことが伺えます。また、この作品は1800年ごろには英訳版(King of Bungo. Translated from the French. By a young lady of fashion, Not More Than Twelve Years Old. London: Tamworth.)までもが刊行されています。本書は、第一部のタイトルページが1754年の刊行年表記、著者名の表記なしとなっていますが、第二部のタイトルページはなぜか第一部のタイトルページが採用されており、こちらも同じく著者名の表記がないものの、1758年の刊行年表記となっていて上述の副題が付け加えられています。

 本書の主人公である「豊後の王シヴァン」とのモデルとなっている大友宗麟は、ザビエルから直接宣教を受け、自身の領地においてキリシタンを保護し晩年には自ら洗礼を受けたことから、イエズス会の書簡集などの作品を通じて、16世紀からヨーロッパでも非常に人気の高い人物となり、日本が禁教政策をとるようになってからも伝説的な模範的キリスト教君主として語り継がれることになりました。本書はこうした歴史的背景のもとに書かれた作品であると思われますが、大友宗麟を主人公にしたフィクション作品としては全2巻に及ぶ最もまとまった大作であること、また現在でもその名を知られ高く評価されている著作家であるボーモン夫人によって書かれた作品であることから、非常に重要な作品ではないかと思われます。18世紀のイギリスやフランスでは日本を題材にしつつ、当時の社会や政治情勢を風刺的に描き出す作品が数多く生み出されましたが、本書は風刺的な意味合いよりも、より積極的に模範的なキリスト教君主のあるべき姿を大友宗麟をモデルとして描き出そうとしていることから、いわゆる「君主の鑑」と呼ばれるようなジャンルの作品に分離されるべき作品であると考えられます。