書籍目録

『日本便り』

ロシェット

『日本便り』

著者による直筆献辞つき 1893年 ジュネーヴ刊

Roschette, Edmond.

LETTRES DU JAPON.

Genéve, Imprimerie Suisse, 1893. <AB2017134>

Sold

14.3 cm x 21.3 cm, pp.[1(Title)-3], 4-117, 1 leaf (TABLE DES MATIÉRES), Original papaer wrappers
背部分と表紙に破れと補修跡あり。

Information

これまでほとんど知られていないスイス副領事ロシェットによる明治日本紀行

 本書は、1891年に日本に赴任したと思われるスイス副領事ロシェット(Edomond Rochette, ? - ?)が書いた日本滞在記です。明治期に日本を訪れた多くの外国人達は、帰国後に自身の体験を綴った紀行文を数多く出版しており、それらが現在では当時の日本社会を外部の視点から伝える貴重な証言となっていますが、本書もそうした文献の一つにあたるものです。

 ロシェットについての詳しい経歴等は不明ですが、1891年にスイス副領事として赴任したことが記録されています。スイスは日本との国交樹立後も長らく外交団を派遣せず、領事が外交的機能を果たしていましたが、最初にブレンワルド(Casper Brennwald, 1838 - 1899)がその任を務め、以降も彼が横浜で営んでいたブレンワルド商会の関係者らが副領事や後任を務めていました。ロシェットは、どうやらブレンワルド商会の関係者ではなかったようで、それが彼の短期間(1年弱)での離任と関係があるいはあったのかもしれません。

 本書は、ロシェットが帰国後の1893年に日本滞在記として、スイス副領事として1891年から92年の間に、彼が日本で見聞したことや様々な出来事についての考察を120ページ弱の書物にまとめて刊行したものです。幕末から明治期にかけて来日したスイス人による日本見聞録、報告書としては、日本との国交樹立交渉のために1863年に来日した、特命全権公使アンベール(Aimé Humbert-Droz, 1819 - 1900)による『幕末日本図絵(Le Japon Illustré. 1870)』が非常によく知られています。また、当店ホームページでも以前にご案内していた、公使館参事官(のち総領事)ブレンワルドによる『遣日スイス使節団の商業部門一般報告書(Rapport Général...1865.)などもありますが、ブレンワルド以降の公人による見聞記である本書は、これまでほぼ知られることがなかったものと思われます。

 ロシェットは序文で、本書はもともと日本に滞在していた期間に祖国の家族に宛てて書いた書簡を選別して、特に手を加えることなくそのまま収録したものであることを述べています。そのため、文学的な洗練を本書に求めることは難しいことを読者にあらかじめ断り、一方で自身が日々の中で実際に体験し、印象に残ったことを記したことを述べます。また、書簡の選別の際に、外交関係や政治、宗教等といったデリケートな話題に関するものは、意図的に省くことにしたことも述べており、これはロシェットが外交的機能を有する副領事として日本に滞在していたことによるものと思われます。本書の構成は、次のようになっています。

・序文
・日本への到着
・日本の祭日
・(副領事としての)公的な訪問
・首都(東京)にて
・中国公使の訪問
・富士山登頂
・日本の大規模な軍事演習
・地震
・天皇の祝賀
・菊花展
・自然誌
・狩猟について
・日本人
・新年
・日本の冬
・地震と疫病
・力士
・(横浜在住の)中国人の祭り
・(第2回衆議院議員総選挙をめぐる)政治的危機
・死刑執行(の立会い)
・火事と野次馬
・花見
・古物
・南部(西日本)への旅
・京都にて
・西日本への旅からの帰路

 120ページ弱ほどの分量に実に多彩なロシェットの見聞が盛り込まれていることがわかります。本文から知りうる限りでは、ロシェットは1891年5月に来日し、1892年10月には帰国の途についたようです。ロシェットの日本に対する評価は概ね非常に好意的なもので、本書の末尾では、日本よりも美しくまた幸福で魅力的な国を地球上で他に見つけることはできないであろう、とまで述べています。また、上述のように政治的な事柄には直接触れないとしつつも、初期議会である第2回衆議院議員総選挙をめぐる政治状況についても記述するなど、政治的、社会的な事項についても随所に貴重な見聞と考察が見られ、明治期の日本社会を知る上での重要な素材を提供しています。

 本書は、数多くある明治期の来日外国人による見聞記にあっても、これまでその存在がほとんど知られてこなかったと思われる文献で、国内で所蔵期間は皆無であると思われます。刊行同時の紙装丁には痛みと補修の跡が見られますが、表表紙の上部にロシェット自身の献辞文の書き込みがある点も大変貴重です。

表紙。右上の書き込みは著者ロシェットによる直筆献辞文。
巻末掲載の目次。1年未満の短い滞在期間ながら非常に充実した内容となっている。
京都をはじめとした関西方面への旅行も行い、その時の見聞も記している。
裏表紙には破れがある。