書籍目録

『余は如何にして基督信徒となりし乎』

内村鑑三 /(訳者不明)

『余は如何にして基督信徒となりし乎』

スウェーデン語訳 初版 1905年刊 ストックホルム刊

Utschimura, Kanso.

HURU JAG BLEF KRISTEN UR EN JAPANS DAGBOK.

Stockholm, E. V. HELLSTRÖMS FÖRLAGSEXPEDITION, 1905. <AB2017131>

Sold

First edition in Swedish.

13.3 cm x 19.0 cm, pp.[1(Title)-5], 6-147, Contemporary three-quarter calf on marble boards.

Information

匿名の訳者によるスウェーデン語版

 内村鑑三の『余は如何にして基督信徒となりし乎』は、英文で書かれ1895年に著者の念願であった海外出版社からの刊行、すなわちFleming H. Revell Companyからおよそ500部が刊行されます。同年に国内で刊行した英語版の出来に非常に不満を持っていた内村は、このアメリカ版の出版を大変喜びました。この書は非常に好評であったと言われていますが、残念ながら僅か500部を印刷した初版でもって絶版となってしまいます。

 しかし、このアメリカ版の出現により、プロテスタント諸国から本書への注目が集まり、また日露戦争を契機として日本への関心が高まっていたこともあって、まずドイツ語版が1904年に登場することになります。このドイツ語版は英語版をはるかに上回る人気を博したようで、すぐさまに増版が決まり、また15年以上にわたって改訂を加えながら版を重ねていきます。また、このドイツ語版の広まりに刺激され、フィンランド語、スウェーデン語、デンマーク語版とが現れ、北欧プロテスタント諸国で親しまれるようになっていきました。

 本書は、そのうちのスウェーデン訳で、フィンランド語版と同じ1905年に刊行されています。翻訳者についての表記が本文中に一切ないため、誰が訳したものかは不明です。冒頭にはスウェーデン語版序文(FÖRORD TILL DEN SVENSKA UPPLAGAN.)と題した小文がありますが、これは内村自身が書いたものではなく、翻訳者が内村の紹介を兼ねて認めたもののようです。本文の構成は英語原著と同じですが、原著から直接訳したものか、あるいはドイツ語版から重訳したものかについても不明です。装丁は当時の改装と思われるもので、出版当時の原装丁ではありませんが大変美しいものです。

 スウェーデン語版は下記にあるように、その翻訳者を巡って紛争が生じたようで、他の北欧諸国版と比べても特異な位置にあるようですが、実際にその内容についてはこれまでほとんど研究されていないものと思われます。


 「このように本書は、1904年(明治37年)にドイツ語訳されたことによって、ヨーロッパ北部のプロテスタント諸国民に知られる機会を得た。翌1905年(明治38年)には、フィンランド語訳とスウェーデン語訳が、1906年(明治39年)には、デンマーク語訳が、相次いで現れることになる。
(中略)
このスウェーデン語版について、著者はこのように書いている。
「内村生著英文『余は如何にして基督信徒となりし乎』は独逸文に訳されて以来、広く北欧諸邦に行渡りしが、今や又、瑞典国首府ストックホルムに於て瑞典語に訳されて出版されんとしつつあり、余輩は欧州大陸新教諸国に於てキリストに於ける多くの愛深き兄弟姉妹を発見しつつあるを感謝す、殊に北方瑞西国に於て多くの歓迎を受けつつあるが如し」(1905年[明治38年]3月発行『聖書之研究』62号所載「欧人の歓迎」)と。そして、その年(明治38年)のクリスマスには、「芬蘭土の隣国瑞典国首府ストックホルムに於て同書の瑞典語訳が出版されて其見本もまた病中の余輩の手許に達した」ことが報ぜられている(1906年[明治39年]3月発行『新希望』73号所載「病中雑記」)。
しかし、このスウェーデン語訳はさきに著者が翻訳権を与えた人とは別人の手に成るものであった。
「其れがために正当の翻訳人より異議の申立が起り、余輩に該国在留日本領事を以て版権侵害の訴訟を起せよとの忠告を受け、病気快癒に向かうや否や、其措置に就て少しく頭を悩ませざるを得なかった。しかし事は勿論穏便に了うつもりである、只瑞典国に於てまで余輩の思想の頒布のために斯かる関係の始まったことを感謝する」(同上)と。
ただこの翻訳には、訳者名は明らかにされていない。」

内村鑑三著、鈴木俊郎訳『余は如何にして基督信徒となりし乎』(岩波文庫、1958年改版、解説より)

タイトルページ。訳者についての記載は一切ない。
目次。英語原著と同じ構成で特に付録等はない。
スウェーデン語版序文の冒頭。訳者の手になるものと思われる。
当時の所有者によるものと思われる改装が施されているが、状態は極めて良い。三方をマーブル染めした大変凝った装丁。
見返しにもマーブル紙をあしらっている。