書籍目録

『フランシスコ・ザビエルの生涯』

トルセリーニ / セルグリェルミ(訳)

『フランシスコ・ザビエルの生涯』

トスカーナ語(イタリア語)訳初版 1605年 フィレンツェ刊

Torsellini, Orazio / Serguglielmi, Lodovico (tr.).

VITA DEL B. FRANCESCO SAVERIO IL PRIMO DELLA COMPAGNIA DIGIESV, che introdusse la Santa Fede nell’india e nel Giappone….

Florence, Cosimo Giunti, 1605. <AB202246>

Sold

First edition In Italian.

4to (15.3 cm x 22.0 cm), Title., 11 leaves, pp.1-64, [LACKING pp.65 & 66], 67-279, 208(i.e.280), 281-364, 2 leaves, Contemporary vellum.
1葉(折丁E1、pp.65, 66相当)欠落のため、簡易コピーが挿入されている。製本の綴じに傷みが見られ、本文中にもシミが散見されるが、刊行当時の製本を保っており概ね良好な状態。巻末に1830年の日付を持つ当時の所有者によるメモ書きあり。[Laures: JL-1605-1-267-162] [NCID: BB20023349]

Information

ザビエルの伝記決定版、最初のトスカーナ語(イタリア語)訳版

 本書は、16世紀に刊行されたフランシスコ・ザビエルの伝記として最も完成度が高く、また繰り返し再版されたことにより、類書中その影響力が最も大きかったと言われる伝記作品です。著者トルセリーニ(Orazio Torsellino, 1545 – 1599、Horatius Torsellinusはラテン語表記)はイエズス会の著作家として多くの書物を著していて、ザビエル没後、ザビエルが成し遂げたアジア宣教の偉大な足跡を含めた彼の詳細な伝記調査と記録の出版を求める声が次第に高まりつつあったことを受けて、本書の執筆に着手し、1594年にローマで初版(ラテン語)を刊行しました。この初版はすぐさま大きな反響を呼び、初版刊行のわずか2年後(1596年)には大幅な増補改訂が施されて、第2版が刊行(ローマとアントワープで2種が刊行:後述)されています。そして、この第2版が決定版として、以降繰り返しヨーロッパ各地で再版、翻訳版の刊行がなされていき、ザビエル伝記の決定版として後年に多大な影響力を及ぼすことになりました。

 本書は、トルセリーニの名著を最初にイタリア語(トスカーナ語)日本訳したもので、1605年にフィレンツェの名門出版社ジュンティ社から刊行されています。訳者セルグリェルミ(Ludovico Serguglielmi)については、詳細が全くわかっていませんが、イエズス会が誇る名著を翻訳し、フィレンツェの出版社から刊行することができたことに鑑みると、相応の地位、学識を備えた人物であったことが推察されます。本書は、同書の翻訳版としても最初期(最初の翻訳版は1600年に刊行されたスペイン語訳版)に刊行されていることから、セルグリェルミとトルセリーニの関係の近さも伺えます。

 本書は全6部構成となっていて、本文に入る前に各種検閲許可文や献辞文、読者への序文などが掲載されています。また、世界をヨーロッパ、アフリカ、アジア、アメリカに分けて簡単に解説した世界地理について基礎的紹介文も収録されています。本文第1部(第1ページ〜)では、ザビエルの出生から幼少期以降の教育、そしてロヨラとの出会いとイエズス会創設への参加とアジア戦況を志すあたりまでを、第2部(59ページ〜)では、アジア宣教のためにインドへと向かい、ゴアを中心として行った宣教活動の様子までを記しています。続く第3部(120ページ〜)は、マラッカへと移って展開された宣教活動の様子、そして日本から同地に来ていたアンジロウとの出会いをきっかけにして日本への宣教を決意し、彼を伴って鹿児島へと向かうあたりするまでを記しています。ザビエルの日本での宣教活動は、第4部(172ページ〜)で非常に詳細に論じられていて、最初に到着した鹿児島、そして豊後、山口において君主から宣教活動の許可を得たり、仏僧と議論を交わしたこと、首都である京都へと向かい、再び山口を経て九州に戻るまでと、時系列に沿ってザビエルの日本での活動が細かく記されています。第5部(225ページ〜)では、日本での宣教活動をより本格的に展開するために、中国での宣教を志して一旦離日して、中国へと向かおうとしたその矢先に病のために帰天したことまでが記されていて、時系列に沿った彼の伝記としては、この第5部までが本論となっています。最後の第6部(280ページ〜)は、ザビエルの生涯を通じて確認された様々な奇蹟、また彼の死後にその遺骸が腐敗しなかったことなど、死後にも生じた多くの奇蹟についての記述となっていて、これらの記述は、ザビエルが一聖職者を超えたある種の聖性を帯びた人物であったことを強調しています。

 本書は、トルセリーニの名著の最初期の翻訳版として原著同様に高い評価を得ている作品ですが、近年では海外古書市場に出現することは殆どありません。本書は非常に珍しいことに国内市場で出現したもので、本文後に1830年の日付で当時の所蔵者によるメモが挿入されているというユニークな1冊です。残念ながら一葉(折丁E1、66, 66ページ相当)欠落があって当該箇所がコピーで補われているほか製本にも傷みが見られますが、刊行当時のものと思われる装丁を残しており、概ね良好と言える状態にある貴重な1冊ではないかと思われます。


「ザビエルの伝記も、没後間もなくからイエズス会士達によって執筆されている。オラシオ・トルセリーニ(1545〜99)の『フランシスコ・ザビエルの生涯』(ローマ、1549年)は、ザビエル伝としては最初に刊行され、広範囲にわたって流布したものである。同書は、1596年にラテン語版の再版(*改訂増補版;引用者注)、1600年に3版、スペイン語版、05年にイタリア語版、翌06年に同再版、08年にフランス語版が出版されており、その後もヨーロッパ各地において多数の版を重ねている。また、ジョアン・デ・ルセナ(1550〜1600)によるポルトガル語の『フランシスコ・デ・ザビエルの生涯』(リスボン、1600年)は、トルセリーニによる伝記と並ぶザビエル伝として後世のザビエル觀に多大な影響を及ぼしたものである。
 伝記の作成は、その人物の列聖列福のための事蹟調査という意味を持っている。列聖列福のためには、その人物の正確な情報が必要だからである。ザビエルは1619年には福者に列せられ、22年にはロヨラと同時に聖人に列せられている。(後略)」
(浅見雅一『概説キリシタン史』慶應義塾大学出版、2016年、51-52頁より)