書籍目録

「ユストゥス・ウコンドノ(右近殿):高山の王子」

フェイス / ジルベルト編 / (高山右近)

「ユストゥス・ウコンドノ(右近殿):高山の王子」

(『Der Bothe von Jericho』第1巻所収作品 ) 1828年 ウィーン刊

Veith, J. E. / Silbert, L. P. (Hrsg.)

Justus Ucondono: Fúrst von Tacayama. [IN] Der Bothe von Jericho. Erstes Bändechen.

Wien, Carl Ambruster’s Verlag, 1828. <AB202244>

Sold

8vo (10.3 cm x 16.8 cm), Half Title. Title., pp.[1], 2-, 18, [LACKING pp.19 & 20], pp.21, 22, 21, 22[i.e. DUPLICATED], pp.23, 24, 23, 24[i.e. DUPLICATED], [LACKING pp.25 & 26], pp.27-246, 1 leaf(Inhalt), One quarter leather on brown marble boards.

Information

 本書の著者、編者の詳細については不明ですが、本書に収録されている作品の内容から推察するに、間接的に教化を意図した読み物等を手掛けていた作家ではないかと思われます。本書は「第1巻」とタイトルページに明記されているものの、第2巻以降が刊行された形跡はないことから、この第1巻のみで完結したものと思われます。この第1巻には15本の作品が収録されていますが、最も興味深いのは153ページから172ページにかけて収録されている「ユストゥス・ウコンドノ:高山の王子」と題された作品で、いうまでもなく高山右近を題材にした作品です。

 この作品は、日本における信仰に厚く模範的な君主であった高山右近の生涯を振り返りながら、彼が生前に示した様々な徳をそのエピソードと共に綴ったもので、高山右近の伝記作品というべき内容となっています。冒頭では、ザビエルに始める日本布教の概要が簡単に説明されていて、比較的早い時期にキリスト教に改宗した「高槻(Tacasuchi)」を収める君主である高山右近のことが紹介されています。高山右近の信仰とその徳については、主として彼が生涯において受けた様々な苦難のエピソードと共に紹介されていて、例えば、「暴君信長(Tyrann Nobunanga)」に対して、右近親子がその支配下にあった「荒木(Arachi)(村重)」が反乱を起こした際、信長からキリシタンを味方につけるために宣教師を説得に派遣するよう脅迫されたエピソードを取り上げた箇所では、右近が所領の全てを返上することで、信仰を守り通したことが高く評価されています。右近は生涯にわたって「暴君」らによる数多くの苦難を受け続けたにもかかわらず、決してその信仰と人々を思いやる気持ちを忘れることなく、その帰天に至るまで信仰を貫き通した高潔な人物として高く評価されており、彼のことはより多くの人が知るべきであると主張して作品を締め括っています。

 高山右近については、ヨーロッパでは早くからイエズス会宣教師らの報告書や、布教史等の書物によってその名が知られており、特に本書が刊行されたウィーンでは彼を題材とした教化劇が演じられていたこともよく知られています。本書はこうした歴史的背景を受けて執筆されたものだと思われますが、これまでの高山右近研究においては、おそらく論じられたことがない作品と思われることから、大変興味深い作品と言えるでしょう。