書籍目録

『日本のこどもの12ヶ月:1903年用カレンダー』

[ちりめん本] 長谷川武次郎 / 新井芳宗

『日本のこどもの12ヶ月:1903年用カレンダー』

第4版 1901(明治34)年 東京刊(ニューヨークのブレンターノ社による販売)

Hasegawa, T(akejiro).

The Months of Japanese Children: Calendar for 1903.

Tokyo / New York, T. HASEGAWA / Brentano, 明治三十年九月七日第一版発行、同丗四年十二月一日訂正第四版印刷、同年十二月廿五日発行. <AB202228>

¥66,000

4th edition.

10.4 cm x 15.9 cm, 8 folded crepe paper folded sheets including the covers (i.e. 14 pages), bound in Japanese style, silk tied.
表紙の一部に薄い染みが見られるが、全体として良好な状態。[Yamamura: 21]

Information

子どもを中心にした四季折々の生活風景を鮮やかに描いたちりめん本カレンダー

本書は、1903年のカレンダーとして作成された愛らしいちりめん本で、東京ないしはその近郊における子どもの一年を描いたユニークな作品です。ちりめん本出版を代表する長谷川武次郎が1900年代を中心に毎年刊行していたカレンダー作品の一つで、富士を背景にした新年の凧揚げ遊びやお手まり(1月)にはじまって、亀戸の梅見(2月)、鶯鳴きのための餌やり(3月)、潮干狩り(4月)、牡丹展の鑑賞(5月)、天王祭(6月)盂蘭盆(7月)、夜の提灯灯(8月)、秋の花々(9月)、おじいちゃんの家の庭での柿とり(10月)、七五三(11月)、雪うさぎ(12月)と、子どもを中心に据えた年中行事や四季の移り変わりがそれぞれのページで色鮮やかに展開されています。

 ちりめん本とは、ちりめん布を模した柔らかい和紙に、欧文の日本昔噺を中心とした物語と、美しい挿絵を多色刷りで印刷した書物の総称で、主に明治期から昭和30年代ごろまで刊行されたものです。その美しい和紙の質感から海外ではCrepe paper booksと呼ばれています。ちりめん本の中でも特に有名な版元であったのが、長谷川武次郎による弘文社で、長谷川が刊行したちりめん本はその量、質において他社を圧倒していました。

 このカレンダー仕立てになっているちりめん本は、この手の企画が始まった1895年頃から、最後期の1970年代の間に膨大な種類と数が刊行されていたようで、その全貌を明らかにすることは容易ではありません。カレンダーという特性上、その年が終わったら使い捨てられてしまうことが多かったであろうことも災いしてか、その発行部数の割には現存するものが少なく、一体どれくらいの種類のものが、どのくらいの部数製作されたのかを辿ることが非常に難しくなっています。こうしたカレンダー仕立てのちりめん本を研究する上で大変参考になるのが、1906(明治39)年に出された長谷川のちりめん本『日本の愛すべき花々(The Favorite Flowers of Japan)』の第二版に掲載された、当時の長谷川によるちりめん本の一覧リストです。それによりますと、カレンダー仕立てのちりめん本だけでも、なんと18種類も作成されています。試みにざっと転記すると、下記の通りです。

(冒頭の数字は引用者が付け足したもの)(カッコ内は当時の$価格)
(邦訳は引用者による仮題)

CALENDERS IN BOOKFORM ON CRAPE PAPER. 
(本仕立てのちりめんカレンダー)

1) Japanese Street Scenes Calendar. (0.75) (日本の街頭風景カレンダー)
2) Calendar on Flower Cards. (0.50) (花札カレンダー)
3) The Months of Japanese Children. (0.35) (日本のこどもの12ヶ月)
4) Hairpin Calendar. (0.35) (髪留めカレンダー)
5) Calendar in Japanese Towels. (0.25) (手ぬぐいカレンダー)
6) Japanese Sceneries (4 x 5 1/4 inches). (0.25) (日本の風景 大)
7) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中)
8) " " (3 x 4 1/4 " ). (0.20) (日本の風景 中2)
9) " " (2 x 2 1/2 " ). (0.15) (日本の風景 小)

HANGING CALENDARS.
(壁掛けカレンダー)

10) Japanese Ladies and Street Scenes. (1.25) (日本の婦人と街頭カレンダー)
11) The Favorite Flowers of Japan. (1.00) (日本の愛すべき花々)
12) Hokusai's Masterpieces. (0.50) (北斎傑作集)
13) Hiroshige's Masterpiece. (0.50) (広重傑作集)
14) Japanese Sceneries in "Kakemono". (0.50) (掛物仕立ての日本の風景)
15) The Silhouettes in "Kakemono". (0.45) (掛物仕立ての影絵)
16) Japanese Towels. (0.45) (手ぬぐい)
17) Wistaria. (0.25) (藤の花)
18) Pagoda. (0.20)  (仏塔)

 単に綴じられたものだけでなく、壁掛けのものや、内容も実に多彩であったことがわかります。7)と8)とは全く同じ大きさのようですので、同じ大きさで異なる絵のものがあった可能性もあります。北斎や広重といった長谷川好みのモチーフや、手ぬぐい型ものまでもあったようです。ここに記された18種類が果たして本当に全種類を網羅しているのかどうかは定かでなく、さらに同じ作品がフランス語など英語以外の言語でも出版されていることも鑑みると、長谷川によるちりめん本カレンダーは、膨大な種類が製作されたことが窺えます。

 このように膨大な種類が製作された長谷川によるカレンダーのちりめん本については、その全体像や変遷、販売網といった出版に関する基本事項を把握することが非常に難しい状況にありましたが、近年になってこうした困難な状況を打開することを可能にしてくれる、山村光久氏所蔵の「Yamamura collection」を元にした画期的なデジタルアーカイブが公開されました(https://crepepaper.studio/chirimen/)。このデータベースでは、長谷川によるちりめん本カレンダーが、その最初期の作品から戦後1970年代に至るまで可能な限り網羅的にその書誌情報、詳細画像とともに紹介されています。また、このデータベースでは長谷川によるちりめん本カレンダーだけでなく、それ以外の他社が手がけたちりめん本カレンダーも紹介されており、当時の「カレンダーブーム」ともいうべき状況を複眼的に考察することを可能にしてくれています。

 この画期的なデータベースを活用することで、「日本のこどもの一年」を題材にしたちりめん本カレンダーが、どのような変遷を経て刊行されていたのかを探ることがある程度可能になります。「日本のこどもの一年(The months of Japanese children)」または、単に「日本のこども(Japanese children)」と題されたカレンダーは、1899年用のカレンダーが初版ではないかと思われます。このときは通常のちりめん本の形態(11.0m x 15.0 cm)で、翌年1900年用カレンダーは、非常によく似ていますが、絵師を変更して「再版」として刊行されています。本書は「訂正第4版」と奥付に記されていますが、カレンダーが変更されていることはもちろんとして挿絵も全く異なるものになっています。奥付にはそれ以前に「訂正第3版」が刊行された旨も記されており、挿絵などの内容は全く変更しながらも「こどもの一年」を主題にしたカレンダーのちりめん本は、同一の作品の「訂正版」として版を重ねていたことが窺えます。「こどもの一年」を主題にしたカレンダーのちりめん本は、本書以降も毎年刊行され続けたようで、店主の知る限り、「訂正第5版」とされている1904年用カレンダーまでは、本書と同様に通常の形態のちりめん本として製作され、「訂正第6版」とされている1905年用カレンダーで初めて菱形というユニークな形態として製作された後は菱形判で版を重ねていったようです。こうした「こどもの一年」を主題にしたカレンダーのちりめん本の変遷を簡単にまとめてみますと、下記のようになります。

①初版(1899年用):Calendar for the year 1899: The months of Japanese children. [Yamamura: 5]
②再版(1900年用):Calendar for the year 1900: The months of Japanese children. [Not in Yamaura / 弊店HP参照 http://www.aobane.com/books/401]

*この間に1901年用カレンダーとして、「Dawn of the Century: Calendar for 1901: The months of Japanese Children」[Yamamura: 10 / 11] が刊行されているが、同書は「こどもの一年」を題材にしつつも、単独の作品として刊行されている。

③訂正第3版(1902年用):Calendar for the year 1902: The months of Japanese children. [Yamamura: 14]
④訂正第4版(1903年用):本書 [Yamamura: 21]
⑤訂正第5版(1904年用):The month of Japanese children: Calendar for 1904. [Yamamura: 33]

*上記第5版までが通常の形態として刊行されている。以下第6版以降は「菱形」の縮緬本として刊行されている。

⑥訂正第6版(1905年用):The months of Japanese children: Calendar for 1905. [Yamamura: 41]

⑦訂正第7版(1906年用):[Not in Yamaura] 存在するはずだが、Yamamura collection にも収録されておらず詳細不明。

⑧A 訂正第8版(1907年用):The months of Japanese children for 1907. [Yamamura: 54]
⑧B 訂正第8版(1908年用):The months of Japanese children for 1908. [Yamamura: 54]
*本来であれば「訂正第9版」となるはずだが、(おそらく長谷川が誤って)、前年と同じく「訂正第8版」とされてしまっている。
⑨第9版(1909年用):The months of Japanese children for 1909. [Yamamura: 65]

*Yamamura collection、ならびに店主の知る限りでも上記⑨以降は、「日本のこどもの一年」を主題としたちりめん本カレンダーはしばらく刊行されておらず、上記⑨でもって一旦完結したものと考えられる。

*なお、Yamamura collection によると、⑨の10年後に「1919年用」として下記が刊行されている。この作品には版の記載はなく、上記⑨の「改訂版」とは認識されていない。

The months of Japanese children: Calendar for 1919. [Yamamura: 143]

*Yamamura collection をみる限り、上記以降に「日本のこどもの一年」を主題にしたちりめん本カレンダーは刊行されていない。

 このように「日本のこどもの一年」を主題にした長谷川のちりめん本カレンダーの変遷を辿ってみますと、1899年用から1909年用に至るまでの約10年間が、中心的な製作時期であったことがわかります。この間に長谷川によって製作された「日本のこどもの一年」を主題にしたちりめん本カレンダーは、英語版だけでなくフランス語をはじめとした他言語版もあるようで、これらの他言語版も含めれば、かなりの部数が製作されたのではないかと推察されます。また、本書の裏面には「Brentano’s New York」と印字されていて、これは本書がニューヨークに輸出されてBrentano社によって販売もされていたことを示すものと考えられます。先のデータベースにおいて山村氏は、そもそもちりめん本カレンダーが製作されるようになった背景として、欧米諸国におけるクリスマスカードの贈呈文化があったことを指摘されていますので、本書を含むちりめん本カレンダーは、他のちりめん本以上に精力的な海外販売網の構築とプロモーションがなされていた可能性は高いのではないかと思われます。

 なお、ちりめん本の研究書で著名な石澤小枝子『ちりめん本のすべて』では、カレンダーのちりめん本について下記のように言及しています。

「カレンダーは他にも色々な種類のものを出している。西宮雄作氏に見せていただいたものでは、ご婦人のハンドバックに入るくらい小さく折り畳んだものもあった。一月の絵は五重の塔の先の避雷針のみで、それを一二月まで広げるとやっと塔の全景が現れるという仕組みのものや、同じ趣向で畳んであるものを全部開くと華厳の瀧になるものなど様々なものがあり、愛好を呼んだに違いない。武次郎の頃からあるものは、主に本の形のものが多いが、西宮与作の時代になると、岐阜提灯のような形のもの、簾のような形のものなど趣向を凝らしている。」

 ひとくちにカレンダーのちりめん本といっても、その内容や、判型、大きさが全く異なるものがこれだけ出されていたとなると、毎年出されたカレンダーのちりめん本の全容を解明することがいかに大変なことかがわかります。とは言え、(まだ見ぬ)多様なちりめん本があるということですから、研究もさることながら、純粋な楽しみとしても今後の発見と整理に期待が高まります。

「これは日本のこどもの12ヶ月を、四季折々の遊び、行事、風俗で表したもので、カレンダーの他には絵の題として簡単なシーンの説明をつけているだけで、特に文章があるわけではない。(新井)芳宗の絵が奇をてらうことなく、愛情こめて子どもの様子、服装を描いているのが魅力的である。」 (石澤小枝子『ちりめん本のすべて』三弥井書店、193ページ)
「1月は見開きで、Merry Street-Schenes on New Year's Day. と題され、凧揚げや羽根つきをする子どもたちが描かれている。」(石澤前掲書)
「次のページは左が2月で、Plum-Blossoms at Kameido. とあり、龜井戸の梅林と子犬と遊ぶ子どもが描かれている。右が3月で、The Feeding of Nightingales.という情景で、簪をつけて着飾った女の子二人が縁側で籠に飼っている鶯を世話しているところで、玩具のように小さな擂り鉢やすりこぎが置かれている。ひな祭りなどではないところが面白い。」(石澤前掲書)
「次のページは左が4月で Gathering Shell-fisch at Ebb-tide という潮干狩の様子。着物の裾をからげて貝を掘る子どもが3人、遠くには舟も出ている。右が5月で題は Peony Eshibition とある。牡丹の花を愛でる振り袖姿の少女たちのぽっくりが可愛い。鯉のぼりなどにしないところが味なのだろう。」(石澤前掲書)
「次のページは左が6月で題は Temo Festival, A Mikoshi of Sacred Car carried about. 神田明神の天王祭の神輿だろう。花笠を被った男の子たちが子ども神輿をかついでおり、遠方には大人の神輿も見える。右は7月。The Feast of Lanterns. 今なら七夕などを描きそうに思うが陰暦なのだろう。お盆の霊迎えの絵のようだ。盂蘭盆には供養のために立派な切り子灯籠が飾られ、唐獅子牡丹の飾りを囲んで3人の子どもがいる。」(石澤前掲書)
「次のページは左が8月で Lanterns in Moon Light という題。子どもたちは浴衣を着て団扇を手にしたり提灯を下げたりして、満月の夜の町をそぞろ歩いている。右は9月で Autumn Flowers. 縁台に姉と弟が腰掛けていて庭にすすき、ふじばかま、おみなえし、萩、秋海某、芙蓉が咲いている。秋の七草ということなのだろうが、桔梗や葛はない。」(石澤前掲書)
「次のページは左が10月で、題は Persimmons in Grand Father's Garden. こういう何気ない子どもの日常が面白い。男の子が柿の木に登って柿をもぎ、女の子が下記の入った籠を持っている。お爺さんに呼ばれて来たのだろう。お爺さんは離れた座敷で孫たちを見ている。今こんな恵まれたお爺さんはそうそういないだろう。右が11月で、題は Children's Festival of three, five and seven years of Age. 七五三参りで氏神にお参りしているところ。羽織袴姿の男の子は5歳、ぽっくりの女の子は3歳であどけない。振り袖姿の7歳の女の子がいてもよさそうに思われるが描かれていない。」(石澤前掲書)
「ラストページは見開きで12月。題は Snow Images. 女の子が座敷でお盆の上に南天の実の目と、笹の葉の耳をつけた雪うさぎを作っている。男の子は庭でかじかんだ手に息を吹きかけている。庭の雪景色もよく、懐かしい。こういう子ども時代を懐かしいと思える世代がどのくらい残っているだろうかとふと思った。」(石澤前掲書)