書籍目録

『中国誌:古代から南京の平和(条約の時代)まで』

ギュツラフ / ノイマン編 / メッペン訳

『中国誌:古代から南京の平和(条約の時代)まで』

オランダ語訳版 全2巻  1852年  ハーグ刊

Gützlaff, Karl Friedrich August / Neumann, K. F.(ed.) / Meppen, K. P.(trs.).

GÜTZLAFF’S GESCHIEDENIS VAN HET CHINESCHE RIJK, VAN DE OUDSTE TIJDEN TOT OP DEN VREDE VAN NANKING…

Hague, K. Fuhri, 1852. <AB2020203>

Sold

First and only edition in Dutch.

8vo (14.0 cm x 23.3 cm). 2 vols.(complete), Vol.1: 3 leaves(blank), pp.[I(Half Title), II), Front., pp.[III(Title.)-V], VI-XXII, pp.[1], 2-435, 1 leaf(blank) Vol.2: 1 leaf(blank), Half Title., Title., pp.[1], 2-392, 2 leaves, 1 folded colored map, Contemporary three quarter leather on marble boards.

Information

日本に関心を持ち続けたギュツラフによる中国対外交渉史から見た日本、原著英語版から約10年を経て刊行されたオランダ語訳版

 本書の著者であるギュツラフ(Karl Friedrich August Gützlaff, 1803 - 1851)は、19世紀前半の中国沿岸部を中心にキリスト教布教のために熱心に活動したプロテスタント宣教師です。ロンドン伝道教会の宣教師モリソン(Robert Morrison, 1782 - 1834)から大きな影響を受けてアジア伝道を志すようになったギュツラフは、当初オランダ伝道協会に所属していましたが1828年に脱退して以降、自力で中国での精力的な布教活動を続けました。ギュツラフは、1831年から1833年にかけて3度にわたる中国沿岸部やシャム、朝鮮半島、琉球への渡航と滞在した経験をもつだけでなく、中国語での聖書翻訳や日英辞書の編纂にも尽力したメドハースト(Walter Henry Medhurst, 1796 - 1857)から中国語などを学んだこともあってアジア各地の言語学習にも非常に熱心で、メドハーストらと協力してモリソンが中国語に訳した聖書の改訂を行っているほか、福音書の日本語訳の出版も行なっています。1837年には、日本からの漂流民を還送する名目でモリソン号に乗り込み、日本との交渉を試みたものの異国船打払令のために砲撃を受けて撤退するという、いわゆる「モリソン号事件」における一方の当事者にもなっています。

 本書は、このように実際には日本に滞在することは叶わなかったものの、日本に終生関心を持ち続け縁浅からぬ人物であったギュツラフが、中国の歴史についてまとめた著作のオランダ語訳版です。原著(A Sketch of Chinese history, ancient and modern: comprising a retrospect of the foreign intercourse and trade with China. London / New York. 2 vols.)は、アヘン戦争を受けてイギリスと清との間で締結された南京条約を受けて、中国の歴史をその対外交渉史に焦点を当ててまとめられた作品です。本書は原著刊行から10年以上を経た1852年に刊行されたオランダ語訳版ですが、ギュツラフによる本書のための新しい序文を掲載するなど、ギュツラフ自身がこのオランダ語訳版に関与していたことがうかがえる興味深い翻訳版です。

 本書は『中国誌』とはありますが、対外交渉史に焦点が当てられている作品だけあって、日本についての言及が全編を通じて頻繁になされていることも大きな特徴で、ギュツラフによる「中国から見た日本史」としても読み解くができる内容になっています。中国だけでなく、生涯を通じて日本に強い関心を持っていたギュツラフの著作らしく、本書中では日本についての興味深い記述を数多く読むことができます。また、第2巻末には日本を含む彩色が施されたユニークな東アジア地図も折り込み図として収録されていて、この地図は原著英語版には存在せず、このオランダ語版にしか収録されていない大変貴重な地図です。

 オランダ語訳版である本書と、原著である英語版との間には10年以上の隔たりがあり、当時の欧米列強諸国と中国との関係、そして日本を取り巻く海外事情というものは大きな変動があった時期に該当するため、両書の間には少なからぬ相違点もあるのではないかと思われます。特にギュツラフ自身が本書に序文を寄せていることから、こうした10年の経過を踏まえた上でこのオランダ語訳版は刊行されていると思われるため、本書は原著の改訂版的な側面を有しているとも言えるでしょう。また、あえてこの時期にオランダ語訳版が刊行された背景には、オランダの中国や日本をはじめとした地域に対する強い関心と危機感もあることが推測できるため、原著英語版にはない意義を持つ版であると考えられます。

 ただし、このオランダ語訳版は英語版に比べて刊行部数が著しく少なかったようで、国内研究機関における所蔵は全く確認できず、国外でも現存数はかなり限られているようです。生涯を通じて日本に対して強い関心を持ち続けたギュツラフによる中国の対外交渉史の視点から見た日本についての記述を数多く読むことができる本書は、現存数が数少ない貴重なオランダ語訳版であることに加えて、原著から10年を経て刊行されたという時代背景も含めて、大変興味深い作品であると言えるでしょう。