書籍目録

『日本案内』

内閣鉄道院運輸局 / (ジャパン・ツーリスト・ビューロー)

『日本案内』

ロシア語版 1917年 東京(博文館)刊

Транспортный Департаментъ: Японскихъ Казенныхъ жел . дор .

Путеводитель по Японии.

Tokio(Tokyo), (Тип .) Хакубункань - инсачуджа, 1917. <AB20211692>

Sold

(First?) Edition in Russian.

11.0 cm x 18.1 cm, Title., 1 leaf, pp.1-70, Plates & Maps: [17], Folded charts & maps: [3], Original pictorial card boards bound in Japanese style.
刊行当時の利用者によるものと思われる署名が表紙にあり。一部のページに破れ、シミなどが見られるがテキストの欠損はなく、全体として良好な状態。

Information

ロシア語圏の旅行者に向けて制作された鉄道院運輸局による日本ガイドブック

 本書は鉄道院運輸局が制作したロシア語で書かれた日本のガイドブックです。鉄道院は外客誘致のための外国語ガイドブックを英語版を中心として各国語版で制作していたことが伝えられていますが、このロシア語版はその中でも大変珍しいものと思われます。鉄道院運輸局がこうした外国語ガイドブックの刊行をはじめたのは1914年ですが、本書は1917年に刊行されていることから、同局によるガイドブックとして初期の作品にあたるものと考えられます。本書以前には喜賓会が既にロシア語版の日本ガイドブックを日露戦争以前に制作していたと伝えられていますが、本書はこれに続く、おそらく日露戦争後では最初期のロシア語で書かれた日本のガイドブックではないかと思われます。

 一見してすぐにわかるように、本書は書物として大変凝ったつくりとなっており、美しい桜と鳥を描いた木版表紙を和綴じにした装丁となっています。表紙は上質の和紙である奉書紙のような厚紙を用い、タイトルは艶と厚みのある洋紙、テキストは和綴じ本を模した袋状になった洋紙を主に用い、所々一般的な1枚紙を組み合わせています。ふんだんに盛り込まれた写真は、タイトル紙と同じような艶と厚みのある用紙に印刷されています。これだけ種類の異なる用紙と印刷方法を組み合わせて一冊の書物に仕立て上げているわけですから、作成の手間とコストは相当なものであったのではないかと思われます。裏面の記載によりますと、印刷を手がけていたのは、当時の日本を代表する出版社であった博文館となっています。

 テキストは、日本の一般的な概説と主要交通機関の紹介、税関などの各種手続き、シベリアから日本への航路と主要な汽船についての案内が最初に置かれています。続いて、主要な鉄道路線と時刻、領事館、大使館の情報、ジャパン・ツーリスト・ビューローの紹介、国内旅行ルートのサンプル紹介、税関手続き、写真撮影の方法、度量衡、通貨、買い物、郵便、電信といったコミュニケーション設備、ガイドの手配、日本の気候、日本の主な産品などの旅行者にとって必要、有益となる具体的な情報がコンパクトにまとめられています。こうした情報に続いて、東京、横浜、鎌倉、逗子、箱根といった関東周辺の観光地の案内と、鉄道路線上にある全国各地の主要な観光地の紹介があり、京都、大阪、神戸、奈良といった都市が解説されています。最後は、鉄道院と鉄道の一般的な情報として、料金体系や、予約方法、荷物の持ち込み時の注意などといった情報が掲載されています。全体の構成は英文版のガイドブックとよく似ていますが、シベリアからの航路や交通網情報が充実しているなど、ロシア語版ならではの工夫がなされていることも目につきます。

 鉄道院運輸局や、その後身である鉄道省は、1910年代から30年代にかけて夥しい数の欧文ガイドブックやパンフレット、ポスター、カレンダーといった印刷物を発行し続けましたが、その中心となっているのはアメリカを見据えた英語版で、続いてフランス語版やドイツ語版、そしてスペイン語版、イタリア語版、場合によってはエスペラント語版などで、ロシア語版というのは非常に珍しいものと言えます。ロシア語版の発行部数自体が少なかったのか、あるいは現存し(古書市場等に流通し)ているものが少ないだけなのかはわかりませんが、いずれにしても、本書は国内所蔵が非常に限られている貴重なロシア語版で、しかも1917年という鉄道院運輸局が制作した欧文刊行物中にあっても初期の刊行物として、大変重要な作品であると考えられます。