書籍目録

『世界の国々の婚姻儀式』

(ガヤ)

『世界の国々の婚姻儀式』

1685年 ヴェネツィア刊

(Gaya, Louis de)

CERIMONIE NVZZIALI DI TVTTE LE NATIONI del Mondo.

Venetia, Steffano Curti, M.DC.LXXXV.(1685). <AB2017120>

Sold

12mo, Fly title, Title, 4 leaves, pp.161, 3 leaves, Contemporary ? marbled card boards.

Information

17世紀末のカソリック世界から見た世界の婚姻文化と日本

 本書はそのタイトルが示す通り、1685年当時に著者が知り得た世界中の婚姻儀式と文化についてまとめた、大変ユニークな書物です。著者とされている人物の詳しいことは分かっていませんが、同時代の様々な文献を用いて本書を作成したようで、日本の婚姻制度や婚姻儀式についても収録しています。

 テキストは全3部構成となっており、第1部はヨーロッパを中心としたキリスト教世界を扱い、カソリック、ルター派、カルヴァン派(プロテスタント)を主として、古代ギリシャや周辺のエチオピアやエジプトのコプト正教会についても言及しています。第2部は、イスラーム教世界を中心に扱っています。

 日本については、第3部の偶像崇拝諸国における婚姻儀式の中に収録されています。ここでは、一神教世界とは異なる世界各地の諸宗教における婚姻儀式と文化が紹介されており、その中で日本も一節を設けて記されています。おそらくイエズス会士による日本報告書などを情報源にしているものと思われますが、男性が自由に些細な理由で婚姻を解消できるのに対して、女性にはその権利が認められていない不平等性などが紹介されており、また比較的細かに婚姻儀式の様子を記しています。

 本書はこれまで日本研究書としては全く扱われてこなかった文献と思われますが、婚姻というカソリック世界において極めて重要な儀式が、世界各地のそれら、あるいは古代ギリシャのそれらと「比較」して論じられていること自体が、17世紀末のヨーロッパにおけるキリスト教世界の唯一性に対する揺らぎを物語っているものと思われます。こうしたある種の「比較宗教」「比較文化」論の試みは、18世紀に入ってピカート(Bernard Picart, 1673 - 1733)とバーナード(Jean Frederic Bernard, 1680 – 1744)とによって刊行された『偶像崇拝の国々の宗教文化と儀式(Céremonies et coutumes religieuses de tous les peuples du monde...1723-1737) 』によって本格化していき、啓蒙の世紀と呼ばれる18世紀を形成していきますが、本書はそれに先駆けて17世紀末にすでにこうした試みの萌芽が存在していたことを物語る、大変ユニークな資料です。

第一部(キリスト教世界)冒頭
第二部(イスラーム教世界)冒頭
第三部(一神教以外の偶像崇拝の世界)冒頭。日本もここに含まれる。
日本は本文中で2度登場する。これは最初の記事。
2度目の日本記事。こちらの方が比較的長い記事。
紙端の立ち切りをしていないいわゆるUncutの状態。装丁は当時のもの?と思われるマーブル厚紙での装丁。