書籍目録

『日本の蚕飼育の教育に関する実践的手引き』著者による紹介書簡付属

クールベ

『日本の蚕飼育の教育に関する実践的手引き』著者による紹介書簡付属

著者自筆献呈本 1866年 トゥール刊

Rouillé - Courbe, M.

INSTRUCTION PRATIQUE SUR L'ÉDUCATION DES VERS JAPONAIS. (AUX ÉDUCATEURS DU DÉPARTMENT D'INDRE - ET - Loire) with the printed letter by author.

Tours, IMPRIMERIE LADEVÉZE, 1866. <AB2017119>

Sold

13.6 cm x 21. 5cm, Fly title, Title, pp.[1], 2-37, 1 leaf (table of contents), Original yellow paper wrapperes

Information

壊滅の危機にあったフランス養蚕業が着目した幕末期の日本の養蚕についての報告、手引書。

 本書は、1866年にフランスのトゥールで刊行された小冊子で、当時の日本の養蚕業、特に蚕の品種とその育成法について紹介した大変珍しい小論文です。1860年代半ばにヨーロッパを襲った伝染病による蚕の大量死は、当地の養蚕業を壊滅に追い込むほどの深刻なもので、このことが結果的に幕末から明治初頭にかけての日本の養蚕業が輸出産業として発展していくきっかけとなったとも言われています。本書はこうしたことを背景にして、フランスが日本の養蚕に着目して紹介したものです。

 著者であるクールベ(Rouillé - Courbe Louis-Pierre, 1797 - 1883)は、トゥールで織物店の経営やワイン醸造などを行なっていた商人で、アンドル=エ=ロワール県(Indre-et-Loire)の農業協会会長も務めていた人物です。本書は、アンドル=エ=ロワールの農業や商業に関する実務教育を行う機関のための手引書の一つとして書かれていることから、極めて実践的な目的を背景にしていることがわかります。

 テキストの内容としては、日本の蚕の品種とその育成法や注意点などを詳細に紹介したもので、壊滅の危機にあった同地の養蚕業を、日本産の蚕をトゥールに導入することでなんとかして立て直そうとしています。また、本書に付属する印刷書簡には、著者によるこの論考の意義が記されていて、蚕の伝染病の爆発的な広まりは終息を迎えるに違いないが、それだけに本書をいち早く届けることで、実践的な情報をフランスにもたらすことの重要性を説いています。また、本書は著者による直筆の献呈の辞が書き込まれています。

 日本の養蚕業に対するヨーロッパ諸国の注目は、早くはシーボルトが持ち帰った『養蚕秘録』がフランスやイタリアで翻訳、出版されたことから、江戸時代後期にすでに始まっていますが、1860年代にヨーロッパ中を襲った蚕の伝染病は、当時と全く異なる文脈で再び幕末の日本の養蚕業に注目を向けさせることになりました。ヨーロッパ中が壊滅的な被害を被った蚕の伝染病の広がりは、その影響を受けていない日本産の蚕の品種、育成についての研究を促し、こうしたことを背景に本書は出されたものと思われます。幕末における日本の養蚕業を紹介した書としては、1868年に刊行された、著名なフランスの東洋学者ロニー (Léon de Rosny, 1837 - 1914)による『養蠶新説 (Traité de l'éducation des vers a soie au Japon.1868.)』が、比較的よく知られていますが、それに2年も先立つ本書はこれまでほとんど知られてこなかったものと思われます。1872年にはフランス式の最新技術を導入して富岡製糸場が官営模範工場として設立され、フランスから日本への近代製糸技術移転が始まりますが、本書は幕末期の日本からフランスへという富岡製糸場とは逆方向に行われた技術交流の知られざる物語の一端を示す文献として、大変貴重な資料と言えるものです。

著者による自筆献呈本
本文冒頭部分。
著者による本書の意義について記した印刷書簡が付属する。
刊行当時の黄色の厚紙による装丁。