書籍目録

「旅行者のための最新日本地図」

喜賓会

「旅行者のための最新日本地図」

第10版 1912(明治45 / 大正元)年 東京(市)刊

The Welcome Society of Japan.

The Latest Map of Japan FOR TRAVELLERS BY THE WELCOME SOCIETY OF JAPAN(KIHIN-KAI).

東京市, 東京印刷株式会社深川分社, 明治三十年十一月十一日初版発行 明治四十五年三月廿五日拾版増訂印刷 明治四十五年三月廿八日発行. <AB2021170>

Sold

10th ed.

10.3 cm x 20.0 cm(folded) / 59.6 cm x 88.3 cm, 1 folded map,

Information

喜賓会による英文ガイドマップ後期版、少なくとも2種存在する第10版の一つ

 この地図を発行していた喜賓会(Welcome Society of Japan)とは、1893(明治26)年に、東京商業会議所の初代会頭であった渋沢栄一、三井物産の設立と三井財閥の近代化に大きく貢献した益田孝、貴族院議長であった蜂須賀茂韶らによって設立された非営利組織で、主に来日外国人に対する様々な便宜を図ることをその主たる目的としていました。明治日本における最初の来日観光客を対象とした組織であり、今で言うところの「インバウンド」について初めて対応した日本における、観光組織の原点とも言える存在です。現代の日本交通公社の前身であるジャパン・ツーリスト・ビューロー(1912年設立)が設立されるまで、増加する来日外国人観光客の対応を手探りながら一手に担っていました。

 この地図は、喜賓会がその主たる目的の一つとして作成、刊行していたガイドマップの第10版にあたるもので、1912年に刊行されています。喜賓会のガイドマップは、初版(1897年)から第3版(1901年)まで、毎年表紙の印刷方法やデザインを変えていて、またガイドマップが会員証を兼ねる作りとなっていましたが、おそらく第4版あたりから意匠を変更し、少なくとも第7版(1908年)までは地図の内容を細かに訂正、増補を加えながら、表紙はよく似た意匠を採用しています。この第10版は表紙デザインのテイストはそれまでの版を踏襲しつつも富士を大きく配したデザインを採用していることが特徴です。裏面が全面広告となっている点は諸般から最終半に至るまで変わらない特徴です。

 この地図は第10版にあたるものですが、どうもこの第10版には少なくとも2種類の異なる異刷が存在しているようです。当店HPで以前案内した表紙が欠落している第10版<AB2017118> と比較してみますと、容姿自体が違っていることに加え、裏面の広告の配置が全く違うものになっていることに気付かされます。本図では裏面の一部を大きくmのちいて神戸を起点とした近隣地図が掲載されていて、周囲に掲載されている広告も関西にゆかりがある企業のものが中心となっています。このことから、本図が刊行された年(1912年)に何らかの大規模なイベント、それも外国人にも関係深いイベントが神戸で開催されたことが推測されますが、店主には現時点ではそれが何であるのかを特定できていません。いずれにしましても、喜賓会のガイドマップは、頻繁に範を改定して、時代状況の変化に応じてその利便性を失わない様に絶えず注意を払っていただけでなく、時には同じ版表記のまま柔軟にその内容を変更していたことを本図が示していることは大変興味深いことと言えるでしょう。

 喜賓会よるガイドマップは、喜賓会解散後の1913年に最終改訂版となる第11版を刊行し、この版で持ってその刊行を終えています。その一つ前の版にあたるこの第10版と第11版とを比べてみると、両者が全く異なるスタイルの地図を採用していることが分かるため、最終改訂版となった第11版が喜賓会解散直前であるにも関わらず、全く新規に地図を作成し直していたことが明らかになります。その意味で喜賓会のガイドマップ政策の変遷を辿る上でもとても重要な版ということができます。

裏面広告
(参考)もう一つの第10版裏面広告。本図とは全く違い構成となっている。
(参考)もう一つの第10版書誌事項記載箇所。本図と全く同じ。