書籍目録

『欧山米水』

渡辺乙羽(大橋又太郎)

『欧山米水』

明治33(1900)年 東京(博文館)刊

<AB202143>

Sold

15.0 cm x 22.0 cm, Front. with tissue guard, 1 leaf, 1 leaf(preface), 3 Front. with tissue guards, 28 Plates., pp.1-6, 2 leaves(contents), pp.1-158, 11 leaves(colophon & advertisements), Original decorated cloth bound in Japanese style.
[NCID: BA7242641X]

Information

東陽堂『風俗画報』や博文館で編集・執筆の多方面にわたる活躍を見せた著者による欧州見聞記

 本書は、渡辺乙羽(大橋又太郎)が、1900年3月末から9月初めにかけて行った、ヨーロッパ各国を歴訪したのち、アメリカを経由して帰国するという世界一周旅行のうち、ヨーロッパ(フランス)旅行編として刊行されたものです。日本郵船を用いてヨーロッパへと向かった乙羽が、寄港地やフランス・パリを中心に綴った紀行文が収録されているだけでなく、優れた編集者として早くから写真技術に注目していた著者によって採用された数多くの写真図版、そして出版人として高い美意識を持っていた著者によるこだわりが凝縮された造本といった点でも、大変興味深い1冊です。

 渡辺乙羽は、視覚資料をふんだんに用いた日本で最初の雑誌と言われる東陽堂の『風俗画報』の編集長として辣腕をふるい、その実績とセンスを買われて本書の出版社である博文館に移籍し『日清戦争実記』をはじめとした同社初期の主要刊行物のほとんどを手がけたことで知られています(乙羽の略歴と編集者としての手腕に注目した研究として、坪内祐三「編集者大橋乙羽」『日本研究:国際日本文化研究センター紀要』第13巻所収論文を参照)。本書はこのように編集者、出版人、そして自らも筆を振るう著作家として精力的に活躍していた著者が、1900年にパリで開催された万国博覧会、ならびに万国著作権会議に出席するために、日本郵船欧州航路を用いてパリへと向かった際の見聞記をまとめたものです。雑誌や書籍への写真掲載に早くから関心を持ち実用化を行っていた乙羽らしく、本書冒頭には、寄港地を撮影した写真や、パリの街並み、万博会場、美術館の様子や修造作品などを撮影した数十枚に及ぶ写真が収録されています。また、序文で著者が述べているように、ドイツで見聞した印刷技術や出版業の隆盛ぶりに触発されて、最高の印刷技術を注ぎ込んで本書を制作しようとしたことの現れとして、美しい口絵、活字、版組、そして和綴本を模しつつ箔押しも用いて、クロスと絹地を併用するという非常に凝った製本と、書物の作りの点においても著者の並々ならぬこだわりが感じられるものです。

 乙羽は数多くの紀行文を残したことでも知られており、本書においても自身初の海外渡航という最高の旅の題材を得た著者が各地で見聞したことが雄弁に綴られています。やや大仰で凝りすぎの感のある文体は読みづらさがあることは否めませんが、著者独自の視点で横浜出港以来の船上の様子も含めて綴られたテキストは、当時の欧州航路旅行客の見聞記として非常に貴重なものと言えます。本書は著者が歴訪したヨーロッパ各国、南北アメリカのうち、基本的にフランス各地の紀行文のみが収録されており、ヨーロッパの他国やイギリス、南北アメリカについては続刊で発表される予定となっていましたが、惜しむべきことに著者は本書刊行後間もなく病により若くして世を去っています(ただし没後に遺稿として刊行)。