書籍目録

『世界の人々のモニュメント:最新の資料による叙述と描写』第2版 全2巻

ブレトン

『世界の人々のモニュメント:最新の資料による叙述と描写』第2版 全2巻

第2版 全2巻 1846年 パリ刊

Breton, Ernest.

MONUMENTS DE TOUS LES PEUPLES, DÉCRITS ET DESSINÉS D’APRÈS LES DOCUMENTS LES PLUS MODERNES;…DEUXIÈME ÉDITION.

Paris, Librairie Ethnographique, 1846. <AB202102>

Sold

2nd edition.

2 vols. 4to (17.0 cm x 25.7 cm), vol. 1: Half Title., Title., pp.[I-III], IV-VI, [7], 8-272, Plates: [60] / vol.2: Half Title., Title., pp.[1], 2-213, 1 leaf, Plates: [90], Contemporary green leather.

Information

古今東西の人々を宗教とモニュメントいうユニークな視点から記した書物に描かれた日本

 本書は、古今東西の人々について、その文化や歴史、そして宗教とそのモニュメント(記念碑、記念建築物、あるいはその遺構)に焦点を当てて紹介したものです。全2巻で構成されていて、第2巻末尾には地域ごとの参考文献一覧が掲載されていることからもわかるように、学問的な正確性を重視した記述でテキストが執筆されていることに加え、150枚もの独立した1ページ大の図版が収録されていることが、本書の大きな特徴です。本書第1巻には、日本について独立した章が設けられていて、3枚の図版とともに大変興味深いテキストが掲載されています。
 
 本書の著者であるブレトン(Ernest Breton, 1812 - 1875)は、19世紀のパリで活躍した著作家、考古学者で、本書の他に古代ギリシャの考古学に関する著作などがあり、本書は彼の代表作の一つにあたるものです。本書が、世界各国地域の宗教「モニュメント」を一つのテーマに据えて執筆されているのは、著者ブレトンの考古学とそれに関連する宗教(とその歴史)に強い関心があったことを示しています。序文でブレトンが述べているところによると、宗教的なモニュメントは、その地域の人々の文化や宗教観を理解する上で非常に重要な一つの指標となるにもかかわらず、これまであまり意識して知られることがなかったとのことで、こうした観点から、本書では、様々な地域や時代の異なる文化や宗教を理解する大きな手助けとなる宗教的モニュメントを大きな主題としたことが述べられています。

 本書の大きな特徴の一つとして、2冊合わせて150枚にも及ぶ多くの図版が収録されていることが挙げられます。この図版には、当該地域の人々の暮らしの様子や建物、象徴的な文化行事の場面、そして、特徴的な宗教モニュメントなどが描かれていて、テキストだけでなく、視覚情報としても読者の理解を助ける造りとなっています。また、テキストについては、第2巻巻末に文献一覧が設けられていることからもわかるように、学術的な正確性を強く意識して執筆されており、当該地域の古典的名著から最新文献まで複数の資料を駆使して、できる限り正確な叙述となるよう配慮がなされています。本書で扱われている地域を列挙してみますと、インド、アフガニスタン、セイロン、ジャワ、ビルマ、シャム、アンナン(安南、ベトナム)、中国、日本、バビロン、ペルシャ、アルメニア、小アジア(以上第1巻)、シリア、パレスチナ、アラビア、エジプト、ヌビア、バルバリー、メキシコ、ペルー、ヨーロッパ各地の様々なモニュメント(以上第2巻)と、古今東西の多くの地域が対象になっていることがわかります。

 本書は1843年に初版がパリで刊行され、好評を博したものと思われ、その3年後である1846年に増補改訂が施された第2版が、同じくパリで刊行されています。本書は、この第2版にあたるものです。

 本書では、第1巻157頁から174頁にかけて、独立した章を設けて日本が扱われていて、ここでは本書ならではのユニークな日本関係記事を見ることができます。また、テキスト冒頭上部の挿入図版に加えて、3枚の独立した図版も収録されていて、いずれも先行する文献に範を取りながらも独自のアレンジが加えられています。

 この日本について解説した章は、日本の地理情報についての記述から始まっていて、日本の緯度、軽度、韃靼や中国、朝鮮半島からの距離の解説、そして、日本が「九州あるいは豊後(Kiu-siu ou Bongo」、「四国(Sikokf)」、「日本(本州のこと)(Nipon)」という3つの主要な島々から構成された島国であることが説明されています。こうした地理情報に関する基本的な解説に続いては、主要都市の紹介があり、皇帝(l’empire)がいる首都である「江戸(Yedo)」、信仰上の試行権を有する「内裏(daïri)」がいる「京(Miaco)」、オランダ人の居住する小島である「出島(Desima)」のある「長崎(Nagasaki)」の記述が見られます。これ以外にも、「下関(Simonoseki)」、「室(Muru)」、「大阪(Osakka)」、「堺(Sakai)」といった、オランダ東インド会社の商館長による江戸参府途上で立ち寄る都市名が挙げられています。

 続いて、マルコポーロや中国人による多様な日本の名称とその変遷(Zipangu, Zy-pen-Koué / Sippon / Zepouen)、国内の行政区分や主要河川(「淀川(Yodo-Gawa)」、「琵琶湖(Biwa-no-Mitsou-Omumi)」、「木曽川(Kiso-Gawa)」、「天竜川(Tenrio-Gawa)」等)などの自然地理、収穫される農産物といったテーマが論じられています。また、日本の歴史については、コンパクトながらも比較的詳しく論が展開されていて、当時ヨーロッパで議論されていた日本の人々の起源をめぐる議論の紹介に始まり、神話時代から近世に至るまでの歴史が紹介されています。また、日本とヨーロッパとの交流史についても触れられていて、1542年のポルトガル人漂着に始まる交流史を、当時日本含めたアジア各地を訪れ、その記録を『遍歴記 (Peregrinação)』としてまとめた、メンデス・ピント(Fernão Mendes Pinto, ? - 1583)に依りながら解説しています。ポルトガルに続く、オランダ人の来航、るい14世の財務総監として辣腕を振るったコルベール(Jean-Baptiste Colbert, 1619 - 1683) が主導した、元オランダ東インド会社オランダ商館長カロン(François Caron, 1600 - 1673)をフランス東インド会社の長官へと引き抜き、日本派遣を企てたことや、レザノフ(Nikolai Petrovich Rezanov, 1764 - 1807)らロシアによる近年の日本への接近の試み(1804年)のことなどを論じています。

 また、著者の関心が深かった日本の宗教事情については、「ミカド(mikad-Do(grand prince)」をはじめとする宮中の構成と「神道(Sinto)」 の教義についての解説、「仏教(Boudsdo)」の日本へ導入の歴史と、その宗派の多様性、「山伏(Yama-bous)」、「儒教(Con-fu-Tzée)」とそのテキスト『論語(Ron-go)』など、かなり詳細に論じられています。また、1549年のキリスト教の伝来と弾圧による廃絶の歴史についても当然大きな注意を払っています。宗教モニュメント(神社仏閣)としては、「観音の寺(TEMPLE DE CANON)」が図版として掲載されていて、日本の特徴的な宗教建築物として紹介されています。それ以外にも、日本の文学や演劇等の文芸が盛んな様子や、日本の建築物とその造り、建築方法についての解説、日本の軍隊とその構成、勢力などの解説が展開されていて、「Onnay(?)の宮廷」、「平戸城の兵士(FORT DE FIRANDO)」と題した図版が収録されています。

 第2巻巻末の文献一覧を見てみますと、ブレトンは本書の日本についての章の記述に際して、カロン、モンタヌスやケンペル、ツンベルク、ティツィングといったヨーロッパで刊行された日本関係図書を数多く参照したことがわかります。また、イエズス会士よって刊行された殉教録なども参照したようで、幅広い年代、ジャンルの日本関係図書に当たりながら、できる限り正確な日本情報を読者に務めようとしたことがうかがえます。ブレトンは、日本関係図書のみならず、日本近隣地域も含めたアジア全体について、同様に多くの文献を参照しており、こうした豊富な知見に基づいて記事が執筆されていることから、本書における日本関係記事は、当時のヨーロッパにおける標準的な日本情報の一つの雛形のあり方としても理解することができます。

見返しにはマーブル紙が用いられている。
タイトルページ。
序文冒頭箇所。
本文冒頭箇所。インドの記述から始まっている。
日本関係記事冒頭箇所。
上掲続き。皇帝(l’empire)がいる首都である「江戸(Yedo)」、信仰上の試行権を有する「内裏(daïri)」がいる「京(Miaco)」、オランダ人の居住する小島である「出島(Desima)」のある「長崎(Nagasaki)」の記述が見られます。これ以外にも、「下関(Simonoseki)」、「室(Muru)」、「大阪(Osakka)」、「堺(Sakai)」といった、オランダ東インド会社の商館長による江戸参府途上で立ち寄る都市名が挙げられている。
著者の関心が深かった日本の宗教事情については、「ミカド(mikad-Do(grand prince)」をはじめとする宮中の構成と「神道(Sinto)」 の教義についての解説、「仏教(Boudsdo)」の日本へ導入の歴史と、その宗派の多様性、「山伏(Yama-bous)」、「儒教(Con-fu-Tzée)」とそのテキスト『論語(Ron-go)』など、かなり詳細に論じられている。
「観音の寺(TEMPLE DE CANON)」
「Onnay(?)の宮廷」
「平戸城の兵士(FORT DE FIRANDO)」
宗教だけでなく、軍事についても詳細に解説されている。
本書には日本以外の古今東西の様々な地域が比較文明論的な観点から論じられていて、本書の日本関係記事を他地域との記述を参照しながら相対的に解釈することも興味深い。
刊行当時のものと思われる装丁で状態は良い。