書籍目録

『日本森林樹木図譜』第1巻(テキスト編)

白沢保美 / [農商務省山林局]

『日本森林樹木図譜』第1巻(テキスト編)

フランス語訳版 [1899年、あるいは1900年?] パリ刊

Shirasawa, Homi.

Iconographie des Essences forestières du Japon. TOME PREMIER.

Paris, Maurice de Brunoff, [1899 or 1900?]. <AB2020406>

Reserved

Edition in French.

16.0 cm x 24.0 cm, pp.[1(Half Title.)-3(Title.)-6], 7-133, Originnal green paper wrappers.
表紙等にヤケ、シミが見られ、タイトルページに書き込みあり。仮表紙の余白部分に破れがあるが、全体として良好な状態。[NCID: BA4495603X]

Information

明治政府による最初の本格的な森林樹木の学術調査報告書として、いち早くパリで出版

 本書は、明治政府による最初の本格的な森林樹木の学術調査の報告書をフランス語に翻訳してパリで出版したものです。著者の白沢保美は、明治期に活躍した森林樹木の研究者で、本書や、その図版集である『日本森林樹木図譜』(後述)において、明治最初の本格的な森林樹木の調査研究報告を出版し、長きにわたって農商務省山林局で中心的な役割を果たしたほか、東京の緑化事業にも多大な貢献を成したことでも知られています。本書タイトルページには「第1巻」とありますが、第2巻となるべき図版集はパリでは刊行されなかったものと思われ、東京で刊行された『日本森林樹木図譜』がこれに代わる役割を果たしたのではないかと思われます。繰り返し再版された図版集に比べると、パリで刊行された本書はこれまでほとんど知られてこなかったように見受けられますが、明治政府による最初の本格的な森林樹木の学術調査報告書を、いち早くフランス語で出版、流通を図ったという点において、本書は非常に重要な意義を有する文献であると考えられます。

 明治に入って、国内における山林のうち、それまでの藩有林、社寺有林が相次いで国有林となりましたが、その管轄行政機関が正式に発足したのは、1881年の農商務省創設に遡ることができます。この時、明治政府所有の国有林が山林局の所管に入り、徐々に国有林の管理と運営が進められていくことになります。これ以降、農商務省山林局は、国有林境界の確定、荒廃した森林の造林事業の運営等を担っていくことになりますが、これらと並行して日本の森林樹木の学術調査にも着手していきます。

 本書の序文で白沢は、1893年(当時彼はまだ帝国大学農科大学林学科に在学中だった)に、森林局から樹木調査の命を受け、それ以降毎年継続して調査を行い、その調査結果の最初の報告として本書が出版されたことを述べています。森林局長による序文においても述べられているように、日本には豊富な森林樹木が多数存在しているにもかかわらず、それらの学術調査があまり進んでおらず、どのような森林樹木が存在しているのかについてを調査することが本書の出版の背景にあったことがわかります。白沢は本書において、こうした豊富な森林樹木を学術的に調査、分類し、その特徴を明確に説明、解説することに努めたことを述べています。こうした序文からは、本書が、農商務省による、日本国内における最初の森林樹木学術調査の報告として、非常に重視されていたことがよくわかります。また、白沢は、森林樹木の学術調査報告としての性質に鑑みて、個々の樹木を描いた図譜(図版集)の出版が同時に行われることが必要不可欠であることを述べています。この図譜(図版集)についても既に出版準備が進められており、丸山宣光による優れた図版が制作されていることを紹介しています。

 本書は、このように、日本最初の森林樹木の学術調査として数年をかけて白沢によって進められた研究成果がまとめられたものです。本書はタイトルページに第1巻(Tome Premier)とあるように、第2巻として図譜(図版集)が出版されることが計画されていたようです。しかしながら、店主の管見の限りでは、パリで第2巻が刊行された形跡を確認することはできず、パリで刊行された『日本森林樹木図譜』は、テキストのみを収録した本書である第1巻のみが刊行されたものと考えられます。パリで第2巻が刊行されなかった理由は定かではありませんが、おそらくは、パリではなく東京において、1900年に『日本森林樹木図譜』(第一秩)が、先述の丸山による非常に美しい図版を多数収録して、農商務省山林局から刊行されていますので、これが、実質的に本書の「第2巻」に該当するものとしての役割を果たしたためではないかと思われます。

 東京で出版された『日本森林樹木図譜』(第一秩)は、その続編(第二秩)が1908年に刊行され、その学術的内容の高さのみならず、丸山による美しい図版とそれを再現した優れた印刷技術によって高い評価を受けたものと思われ、1905年から1910年に農商務省山林局によって再版がなされ、また1911年から1912年にかけては民間から複製版が、さらに近年1983年にも復刻版が刊行されています。

 いち早くパリでフランス語に翻訳されたテキスト編として刊行されたと思われる本書は、東京で刊行された『日本森林樹木図譜』に比べるとこれまでほとんど知られてこなかったと思われますが、日本最初の森林樹木調査をいち早くヨーロッパに発信したという点において、本書は改めて評価されるべき、非常に重要な書物であるということができるでしょう。

表紙等にヤケ、シミが見られ、仮表紙の余白部分に破れがあるが、全体として良好な状態。
タイトルページには当時の所有者によるサイン?がある。
農商務省による序文。
白澤による序文。
上掲続き。
本文冒頭箇所。
裏表紙にはヤケが見られる。