書籍目録

『浮世形六枚屏風』

柳亭種彦 / セヴェリーニ(訳)

『浮世形六枚屏風』

イタリア語訳初版 1872年 フィレンツェ刊

柳亭種彦(RIU TEI TANE HICO) / Severini, A(ntelmo).

UOMI E PARAVENTI: RACCONTO GIAPPONE.

Florence(Firenze), Successori le Monnier, 1872. <AB2020404>

Reserved

First edition in Italian.

Extremely small 8vo (7.0 cm x 11.0 cm), pp.[I(Half Title.)-III(Title.)-V], VI-XIX, [1-3], 4-188, Modern card boards with covers.
近年に施されたと思われる厚紙装丁で、オリジナルの表紙が貼り付けられてある。さらにその上から厚紙のカバーがかけられている。[NCID: BA88866091]

Information

19世紀後半のイタリアにおける日本研究の中心を担った著者によるユニークな翻訳と解説

本書は、19世記イタリアにおける日本学の第一世代を代表する学者セヴェリーニ(Antelmo Severini, 1828 - 1909)よる、柳亭種彦『浮世形六枚屏風』のイタリア語訳と注釈です。『浮世形六枚屏風』は、オーストリアの東洋学者、日本学者であるプフィッツマイヤー(August Pfizmaier, 1808 - 1887)によってドイツ語訳と、原著の挿絵を亜鉛版リトグラフ印刷によって再現し、特殊な連綿体活字を新たに作成して、筆文字の日本語テキストを再構成した、翻刻復刻版が、1847年にウィーンで刊行されていますが、セヴェリーニはプフィッツマイヤー本から重訳するのではなく、自身でも原著にあたって新たにイタリア語に翻訳して本書を刊行しています。本書は、ヨーロッパで最初に翻訳された小説として知られる『浮世形六枚屏風』の記念すべきイタリア語訳本として、また当時のイタリアにおける日本研究の水準を示す書物として大変興味深い一冊です。

 19世紀イタリアにおける日本と日本語研究は、古くからある布教史の再版や伝道報告を別とすれば、19世記半ばに政府主導で始まった東洋語研究に端を発しています。ヨーロッパ諸国と東アジア諸国との貿易の隆盛を背景として、1860年、イタリア政府は東洋語研究を進めるために、奨学生試験を実施しました。この試験に合格したのが、本書の著者セヴェリーニです。セヴェリーニは、当時、東洋語研究の最先端であったフランス、パリに留学し、ロニー(Léon de Rosny, 1837 - 1914)らから3年間にわたって日本語を学び、それ以降、ロニーを日本語の詩として仰いでいます。帰国後は、フィレンツェ大学の前身である高等科学研究所(Istitutio di Studi superiori)で東洋諸言語の講座を担当し、イタリアにおける最初の東洋語講座教員となりました。セヴェリーニはこの研究所において教鞭を取って後進の日本研究者を数多く育てただけでなく、東洋研究雑誌『イタリアにおける東洋研究雑誌(Bollettino italiano degli Studi orientali)』を1876年に創刊するなど、研究成果の発表、公開にも極めて精力的に取り組みました。1877年には高等科学研究所内に「東洋研究アカデミー(Accademia Orientale)」を設立し、東洋諸言語に関する文献の収集、研究、翻訳書籍の刊行を行い、イタリアにおける東洋語研究の基礎を多方面に渡って築き上げました。

 セヴェリーニは、プフィッツマイヤーによるドイツ語訳の画期的意義を高く評価しつつも、当時の研究水準と資料的制約による誤訳が少なくないとして、その後の日本研究の進展と新しい資料を駆使して、自身で入手した原著をもとに新たにイタリア語に翻訳したことを序文で述べています。セヴェリーニは日本語以外にも多くの言語の習得、研究に長じており、優れた語学研究の才能と長年の研鑽に基づいた自身の日本語研究には大いに自信を持っていたものと思われ、1世代前の研究者にあたるプフィッツマイヤーに敬意を払いながらも、自身の翻訳がより正確であることを誇っていることがわかります。その一方で、自身の師であるロニー、そしてプフィッツマイヤーらと共同でさらなる日本語研究を行い、その成果をもとにして本書の註釈版を追って刊行するつもりであることを述べています。この研究成果は、「浮世形六枚屏風:テキストへの文献学的註釈、ドイツ語訳、イタリア語訳、フランス語訳、英語訳の批判的考証 (Uomi e Paraenti. Postille filologiche al Testo, o Esame critico delle traduzioni tedesca, italiana, francese e inglesi, nel Bollettino italiano degli Studi orientali, Anno I. Firenze, Tip. Dei Sucessori Le Monnier, 1876.)」として、発表されたと言います(店主未確認。吉浦盛純『日伊文化史孝:19世紀イタリアの日本研究』イタリア書房、1969年、16頁参照)。

 このように、本書は19世紀後半の至りにおける日本研究の始祖となったセヴェリーニによる大変重要は翻訳・解説本ですが、どういうわけか、トランプほどの大きさ(7.0 cm x 11.0 cm)しかない、ごく小さな書物で刊行された影響もあってか現在ではほとんど見ることができない書物となっています。国内研究機関における所蔵もCiNii上で見る限り、京都外国語大学付属図書館と国文学研究資料館にしか確認することができません。

トランプほどの大きさ(7.0 cm x 11.0 cm)しかない、ごく小さな書物。なぜこのように極端に小さな書物として刊行されたのかは不明。
近年に施されたと思われる厚紙際装丁。オリジナルの表紙がきちんと貼り付けられている。
タイトルページ。
セヴェリーニによる序文。
柳亭種彦による原著序文の翻訳。
翻訳本文冒頭箇所。注釈が施されていて、テキスト下部に読者のために解説がなされている。
本文末尾。
裏表紙。
オリジナル表紙を模った厚紙のカバーがかけられている。