書籍目録

『1598年の日本におけるキリスト教界報告:日本の王、太閤様(豊臣秀吉)の死について』(ほか3書簡収録)

パシオ、ゴメスほか

『1598年の日本におけるキリスト教界報告:日本の王、太閤様(豊臣秀吉)の死について』(ほか3書簡収録)

初版 1601年 ローマ刊

Pasio, Francesco / Gómez, Pedro...[etal.]

COPIA D 'VNA BREVE RELATIONE DELLA CHRISTIANITA DI GIAPPONE, Del mese di Marzo del M.D. XCVIII. insino ad Ottob.del medesimo anno, Et della morte di Taicosama Signore di detto Regno. Scritta del P. Francesco Pasio,...

Roma, Luigi Zannetti, M. D CI. (1601). <AB2017101>

Sold

First edition

8vo, pp.[1(Title)-2], 3-109, blank leaf, Contemporary ? vellum.
テキスト下部の一部に虫食いによる穴を修復済。

Information

秀吉の死と家康の台頭による不穏な空気を報告する1598年のイエズス会日本報告書

 本書は、ボローニャ出身のイエズス会士パシオ(Fransisco Pasio, ? - 1612)による1598年の日本におけるキリスト教と社会状況、とりわけタイトルにもあるように、太閤様(Taicosama)と呼ばれる豊臣秀吉の死という、非常に重大な事件を報ずる書簡を筆頭に編纂されたイエズス会の宣教報告集です。

 パシオ書簡は、1598年10月3日付で長崎から発信されたものです。パシオは、豊臣秀吉、秀頼、徳川家康、秀忠らと親交があり、秀吉から家康へと時代が移り変わるまさにその時にこの書簡は書かれています。次第に悪化する秀吉の病状と、死の間際にあった秀吉が家康に対して、自身の没後は、家康が秀頼の後見人として日本の統治を委ねること、また秀頼の成人後にあっては政権を秀頼に返すことを約束するよう家康に求め、家康は秀吉の言葉を聞いて落涙を禁じ得なかったことなどが詳細に書かれています。一方で、パシオは家康の性格を冷静に見ており、彼が流した涙は悲嘆の涙ではなく、随喜のそれであったと言う人がいないわけではないとも指摘しています。また、秀吉の死後、侵略中であった朝鮮に対して家康らが派遣され全軍帰国の命が下されたこと、そして、このことは日本のキリシタン諸侯とキリスト教会において喜ぶべきことである、と報告しています。なお、このパシオ書簡はイタリア語で書かれたものですが、のちにジョン・ヘイ(John Hay, 1546 - 1607)がラテン語で編纂した『イエズス会書簡集(De Rebvs Iaponics...1605)』にも収められました。

 パシオ書簡の他には、ゴメス(Pedro Gomez, 1533 - 1600)による1598年の日本報告書簡が収録されています。ゴメスは、アリストテレスの天文学と世界観を天草のコレジョのためにラテン語で書いたテキスト『天球論』によって初めて日本に伝え、のちに日本準管区長も務めた(その後継が先のパシオ)人物です。パシオ書簡が長崎から発信されたことを明記しているのに対して、ゴメス書簡には発信月日、発信地の記載はありませんが、パシオ報告と重複しない内容で、天草や大村所領を中心としたキリスト教界と社会情勢について報告しています。ゴメス書簡は、もともとポルトガル語で書かれていたものを、イタリア語に翻訳して本書では収録しています。

 また、本書には日本関係以外の報告書も2通収録されており、一つはロンゴバルディ(Nicoló Longobardi, 1550 - 1654)による1598年の中国宣教報告で、前任であるマテオ・リッチ(Matteo Ricci, 1552 - 1610)を引用しながら、多方面にわたって中国宣教の状況を報じています。もう一つは、ジャヴィエル(Jerónimo Javier, 1549 - 1617)によるムガル帝国についての1599年報告です。

 本書は、1601年に複数の地で異なるタイトルページでもって刊行されていますが、これはその中でも当時のイエズス会による書物刊行において、中心的な役割を果たしていた、ローマのZannettiから出版されたもので、その意味において最も信頼できる版と言えるものです。また、本書は同年中にマインツでラテン語版も刊行されています。

 テキストの一部に虫食いがあるため修復が必要な状態(現在修復中)ではありますが、イエズス会士による日本報告の中でも、非常に重要な時期に書かれた書簡を収録した、大変貴重な文献です。