書籍目録

『日欧貿易史』

メイラン / ディーダーリッヒ訳

『日欧貿易史』

ドイツ語訳版 1861年 ライプツィヒ刊

Meylan, G.F. / Diederich, F. W.

Geschichte des Handels der Europäer in Japan.

Leipzig, Voigt & Günther, 1861. <AB201799>

Sold

First edition in German.

8vo, Half Title, pp. [I (Title) III], IV-X, 1 leaf (Vehlerverbesserungen), [1], 2-233, Quarter black cloth on marbled boards with original card wrappers.
複数のドイツ大学図書館旧蔵本のため背にラベルと押印あり。ページの一部にスポット状の染み。

Information

日普修好通商条約の締結年にドイツが手引書として再評価、刊行された貴重なドイツ語版

 本書の著者であるメイラン(Germain Felix Meijlan, 1785-1831)は、1826年から1830年の間、長崎出島のオランダ商館長を勤めた人物です。メイランの商館長時代は、日蘭貿易が衰退の傾向にあり、その再建がオランダにとって急務の時代でした。オランダ本国自体が1795年にフランスに併合され、99年には東インド会社が解散しており、メイランは、祖国復興のために日蘭貿易を何とかして再建しなければなりませんでした。また、彼の在任期間中には、いわゆるシーボルト事件が発生しており、メイランはこれを巧みに切り抜けながら、貿易再興策を練りました。

 本書の原著は、メイランが遺した二つのオランダ語著作のうちの一つで、『日本(Japan. 1830)』が、日本の文化や社会を中心に様々な角度から考察した書物であるのに対して、本書『日欧貿易史(Geschiedkundig Overzigt van den Handel der Europpezen op Japan. 1833)』は、主に貿易を中心とした経済的な角度からの日本の分析がなされた書物です。このオランダ語原著は、『バタビア学芸協会雑誌(Verhandelingen van het Bataviaasch Genootschap der Kunsten en Weetenschappen)』の第14号に掲載されています。

 全9章と補論からなる構成で、最初の3章では、ポルトガル、スペイン、イングランド、ロシアの日本との交渉史が扱われます。イングランドに関する章では、関連資料として、家康が公布した朱印状の内容の英訳文が補論に収録されています。第4章から第8章までは、オランダと日本との貿易史を四期に分けて詳述しており、本書の中心をなしています。すなわち、第4章(平戸時代)、第5章(1641年−1685年)、第6章(1686年−1743年)、第7章(1744-1790年)、第8章(1791年以降)という構成です。最後の第9章は結論、補論では出島商館における取引実務の詳細についての解説となっています。メイランは歴代のオランダ商館長、特に日蘭貿易改善に熱心に取り組んだティツィングらの取り組みを詳細に検討する中で、あるべき貿易改革案を提示しています。

 本書が非常にユニークなのは、上記のように1833年にオランダ語で書かれた文献を、その約30年後にドイツ語に翻訳して出版された資料であるという点にあります。このドイツ語版が刊行されたのは1861年のことで、まさにプロイセンと江戸幕府が日普修好通商条約を締結し、両国の国交が開かれた記念すべき年に当たります。翻訳者のディーダーリッヒについての詳細は不明ですが、彼はこのことを非常に意識しており、翻訳者による序文で、この書が今まさに西洋諸国に開国した日本との交易、特にドイツとの交易を考察する上で、極めて重要な情報を提供してくれることを強調しています。日本の経済、政治、歴史、国民性、貿易の性質を優れた筆致で提供するメイランの著作の価値は、数十年を経てもなお色あせず、むしろ重要性を増していることを述べ、日本での貿易を志す実務者にとっても、日本の研究を進めたい学者にとっても本書は等しく高い価値を有していると熱を帯びて語ります。日本が今後西洋諸国との接触によってどのように変化していくのか、また我々(ドイツ)が彼らの生活や思考様式をどのように学んでいくのかについて、本書は一つの道しるべとなる旨を述べて序文を結んでいます。その意味において、本書はドイツ(プロイセン)と日本とが国交を樹立したその年に、最も参照すべき書物として刊行された資料として、原著の文脈とは別なユニークな背景を持つ、大変興味深いものです。

 なお、本書はいくつかのドイツ(ケルン)の研究図書館の所蔵を経てきたようで、ナチス時代の鉤十字の押印などがタイトルページなどに見られるほか、背表紙に管理用のラベルが貼られてあります。

 

翻訳者ディーダーリッヒによる序文の末尾と目次冒頭。右上の押印はナチス時代の旧蔵印。
目次続き。
家康がジョン・セーリスに公布した朱印状の英文。
本来はこの黄色の厚紙表紙による装丁だったと思われるが、改装した上でオリジナルの表紙を残して綴じてある。
背には旧蔵者の管理ラベルが貼られている。