書籍目録

『日本の養蚕業』

(メキシコ勧業局)

『日本の養蚕業』

ほか6作品と合冊 1897年 メキシコシティ刊

(SECRETARÍA DE FOMENTO)

KA SERICICULTURA EN EL JAPÓN.

Mexico City, OFICINA TIP(OGRAPHICA). DE LA SECRETARÍA DE FOMENTO, 1897. <AB201798>

Sold

(Bound with other 6 works in 1 vol.)

13.0 cm x 19.5 cm, pp. [1-3], 4-27, 1 leaf (ÍNDICE.), folding plates: [25], Contemporary half calf on marbled boards.
折り込み図版の裏面(折り目)に補修跡あり。

Information

明治の日本養蚕業技術のメキシコへの紹介と勧業

 幕末の横浜開港以来、日本の輸出産業として急成長を遂げた明治の養蚕業は、輸出量を増加させるとともに、養蚕、製糸技術の革新を続けたことで、日本を代表する産業となりました。本書は、19世紀末にメキシコで刊行された、当時の発展著しい日本の養蚕業を紹介する手引き書で、25枚の折り込み図版(一部カラー含む)とともに、品種や飼育技術などを解説した大変珍しい書物です。

 江戸時代末期以降、日本の養蚕はしだいに盛んになっていきますが、横浜、神戸の開港と同時に輸出需要が高まるにつれて、その生産量と技術を急速に高めていきます。当時ヨーロッパでは伝染病の蔓延によって養蚕業が壊滅しかけていたこともあって、生糸の需要が急増しており、紆余曲折を経ながらも日本の蚕糸業は、輸出産業を代表する産業となっていきます。粗悪品の乱造による商業摩擦も多々生じたものの、教育機関や研究機関の設立、高品質な桑品種の栽培体制の整備など、官民双方の努力により、明治以降の日本の養蚕業をはじめとする蚕糸業は急速な発展を遂げていきました。

 この目覚ましい発展を遂げていた日本の養蚕業に着目したのが、外国資本の導入と西欧近代化を進めつつあった当時のメキシコでした。本書の著者は、明記されていませんが、その出版社が(メキシコ)勧業局出版部となっていることから、国家政策の一環として本書が企画出版されたものとみて間違い無いかと思われます。テキストは30ページにも満たないコンパクトなものですが、折り込みの25枚の挿絵は、明らかに日本の書物(店主にはその書名を特定できず)から採用したと思われる、養蚕現場や蚕、桑の品種を描いたもので、テキストと連動して参考となるように添えられています。序文では、横浜開港以来40年近くが経過したが、日本の養蚕業は輸出産業としてゆっくりとではあるが着実に成長を遂げ、現在(1897年時点)では官民の努力により主要な輸出産業としての地位と評判を得るに至っていることを述べています。続いて、蚕糸業は、蚕の飼育と品種、桑の選択の適切さがその品質を左右するため、その技術や方法に精通していることが極めて肝要であるから、農商務省管轄化の研究所がこれを推進することで、産業を育成したい旨が述べられています。ここからも、当時のメキシコ政府が日本の養蚕業を手本として、産業移転と育成を図ろうとしていたことが読み取れます。

 本書は、Oliverio Tellezなる人物(店主には人物を特定できず)が、農業、畜産業に関する当時のメキシコの文献を私的に編纂したと思われる書物に合冊されており、本書の他に畜産や農業に関する6本の作品が合冊されて1冊の書物となっています。背表紙には「家畜と有用昆虫類(GANADOS E INSECTOS UTILES.)」第4巻(TOMO IV)と箔押しされており、蔵書印から見て1905年前後に編纂されたものと思われます。幕末から明治の養蚕業は、その品質確認と視察の目的から、イギリスやフランスによる欧文報告書が刊行されたことが比較的よく知られていますが、本書のように産業移転を目的とした趣旨で海外に紹介されていた事例は、あまりないのではないかと思われます。その後のメキシコで実際に本書がどれほどの影響を与えたかについては定かではありませんが、明治期の日本の産業をユニークな視点から紹介した文献として、本書は大変興味深いものです。

タイトルページ
目次
テキスト部分。テキスト巻末の図版を参照しながら解説している。
テキスト巻末には25点の図版が収録されている。
明治以降の日本の文献から取ったと思われる図版だが、店主には書名を特定できす。
作業工程を視覚的にわかりやすく伝える内容となっており、日本の何らかの教本から採ったものと思われる。
用いられる設備や道具についても開設されている。
最重要な蚕の解説図版はカラー刷
当時のメキシコで刊行された他の6点の農業、畜産業の作品とともに合冊されている。いずれの作品にも同じ蔵書印が押されている。
書物外観