書籍目録

『44枚の地図で描かれスペイン語にて記される新旧世界の簡略地図帳』

(ペータース)(原著) / (アッフェルデン)(訳) / (フェール)(図) / ラソ(序文)

『44枚の地図で描かれスペイン語にて記される新旧世界の簡略地図帳』

スペイン語改訂第4版(マドリード第2版) 1711年 マドリード刊

(Peeters, Jacques) / (Afferden, Francisco de) / (Fer, Nicolas de) / Laso, Francisco.

EL ATLAS ABREVIADO, O COMPENDIDOSA GEOGRAFIA, DEL MVNDO ANTIGVO, Y NVEVO, segun està oy dividido. ILUSTRADA CON QUARENTA Y QUATRO MAPAS, nuevamente abiertas, y explicadas en Castellano...

Madrid, Francisco Laso, 1711. <AB201796>

Reserved

Forth edition (2nd Madrid edition) in Spanish.

8vo, Half Title, Front., Title, 6 leaves, pp.1-210[i.e.216], 217-273[i.e.275], 276-178[i.e.278], 179[i.e.279], 280. Folding maps [43] complete as issued, Contemporary full leather.
冒頭(30頁あたりまで)ノド部分に虫食い穴と補修跡あるが、全体としての状態は良好。折り込み地図は文中の記載通り完備。

Information

「きわめて稀少で、見識あるコレクターたちの垂涎の的」とされる18世紀スペインが描いた世界地理と日本

 本書は、スペイン継承戦争に揺れるマドリードで1711年に刊行された、大変珍しい世界地図帳です。タイトルには「44枚の地図で描かれる」とありますが、43枚の地図と1枚の口絵からなるもので、当時のヨーロッパの激動の中心であったスペインから見た世界観を、テキストと地図との両方で表現しています。タイトルにもありますように、ヨーロッパ(旧世界)だけでなく、アジア、アメリカ、アフリカといったいわゆる新世界も含めた地図帳となっており、日本を描いた地図や記述も本書には見られます。

 本書は、もともとペータース(Jacques Peeters)が、フランス語で書き、1692年に出版した『簡略地図帳(L'Atlas en Abregé. 1692)』が底本となっています。この本をスペインの聖職者であったアッフェルデン(Francisco de Afferden)がスペイン語に翻訳して1696年にアントワープ(16世紀末以降スペインの勢力下にありました)で刊行し、これがスペイン語初版とされています。翌1697年には第2版が、1709年には第3版がいずれもアントワープで刊行されており、それなりに好評を博したものと思われます。本書の版権については、その後かなり錯綜した関係にあったようで、アントワープで刊行が継続される一方、スペイン本国のマドリードでも1709年に刊行されており、これがマドリード版初版とされるものです。本書は、第4版をうたい1711年にマドリードで刊行されたもので、アントワープでの勅許を経てマドリードで出版されたことをタイトルページ下部で記載しています。マドリード版は大変貴重とされており、ヨーロッパで出版された日本を描いた古地図の目録作成の権威であるジェイソン・C・ハバード氏による『世界のなかの日本地図』(日暮政通訳、柏書房、2018年)でも次のように記されています。

「この地図帳のマドリード版は現存する蔵書が少ないことから、出版部数は極めて少なかったに違いない。フェルドウッセン一族(アントワープ版の版権保持者;引用者注)はマドリード版が短命に終わった後、ゆうに半世紀にわたってこの簡便地図帳を出版販売してきたことから、法の手がついにボントンと共犯者のラソ(本書の出版社;引用者注)を捕らえたことが推測できるのみである。」(日本語版309頁、英語版277頁、第65番地図解説)

 ただし、通常のいわゆる海賊版には見られないような、出版社の前書きや献辞文、地図の改訂増補などが見られることから、本書は、上記から受けるような単なる海賊版としてのみ見るべきでなく、当時の政治情勢を物語る固有の研究価値を有するものと見るべきといえます。

 本書がユニークなのは、当時スペイン継承戦争に揺れていたスペインとフランス側にとっての世界観を多くの地図とともに表現している点にあります。先に記したように、元々はフランス語から翻訳されたものですが、おそらくはそのまま翻訳したのではなく、そこにはスペインの当時の支配的な視点が盛り込まれたものと思われます。それを反映するように本書で最初に取り上げられるのは、スペイン、ついでフランスとなっています。また、冒頭の口絵には、スペイン継承戦争の中心人物であったフェリペ5世を称える格言がラテン語で記されています。本書は、ヨーロッパの地図や説明が全体の多くを占めています(43枚の地図のうち実に32枚がヨーロッパ)が、スペイン、フランスは当然としても、当時重要であった、現在のオランダ、ベルギー周辺については相対的にみて非常に詳細に扱われており、当時の世界観をうかがい知ることができます。
 
 また、日本との関係では、本書にはフェール(Nicolas de Fer, 1646 - 1720)が作成した日本図をベースにした日本図が収録されている点も見逃せません。「フィリピン諸島」と題された地図の上部に別図として日本が単独で描かれているほか、中国図、アジア全体図や、世界全体図の中にも日本が描かれていることを見ることができます。「フィリピン諸島図」に描かれる日本の姿は先行するどの地図の類型にも属さないことで知られており、先行諸地図をいくつか組み合わせて独特の形状の日本地図が作成されています。蝦夷や琉球は全く描かれていませんが、これは当時のヨーロッパにおいて両地域が日本に属するものとみなされていなかったことによります。本州部分に大きく記された京都(都、Meaco)や、江戸(Iedo)だけでなく、本州(ISLA NIPHON)、四国(Isla XICOCO)、九州(Isla Ximo)に多くの地名が記されています。ただし、琵琶湖は大きな湾の一部となってしまっており、京都がこの湾に面した臨海都市として現在の神戸付近に描かれています。いくつかの島についても地名が記されており、隠岐(I. Oqui)、佐渡(Sando I.)、平戸(I. Firando)などが確認できます。東北地方は北に向けて大きく直立しています。

 テキストでは、日本は中国の東にある気候的も優れ、金銀の算出が豊かな国であるが、地震が頻繁に起こると説明されています。また、その国土は本州(ISLA NIPHON)、四国(Isla XICOCO)、九州(Isla Ximo)からなり、その首都は江戸にあってそこには将軍(Emperador)が住んでいることを記しています。一方、京都(Meaco,都)には、天皇(Dayro,内裏)が住んでいることを説明し、当時のヨーロッパの日本理解に多く見られる、二重権力に基づく日本の統治機構を簡単ながらも記しています。歴史とヨーロッパ諸国との交流史についても触れており、ザビエルが1549年に来日し、以降宣教師による布教活動が熱心に行われたものの、現在は廃絶されており、一人オランダのみが貿易国としての交易を許されていることなどが記されています。

 フェールの日本図は、本書に限らずいくつかの書物でも掲載されており、比較的よく知られている日本図と言えますが、多くの場合地図単体で所蔵されていることが多く、本書のように書物全体での所蔵機関は極めて稀と思われます。当時のスペイン(あるいはともに継承戦争を戦ったフランス)の世界観におけるものとして、日本図とその解説を読み解くことで、文脈に即した理解と研究がより一層可能になるものと思われます。

 なお、収録されている地図は下記の通りで、収録されている地図一覧と一致することから、完全揃いであることは間違いないと思われます。(冒頭の数字のみ、店主が利便性のために付け加えたもの)

1)天球全図。Por Cabecera del Libro entra el Atlas.
Luego entra la Explicacion de el Globo Celeste. 
2)地球全図。Difinicion de la Geografia, y Division del Planisferio, o Mapa  general de la Tierra.
3)天球儀。Esfera Armilar
4)ヨーロッパ全図。Europa.
5)スペイン。Espana.
6)フランス・Francia.
7)イタリア。Italia.
8)サヴォイ。Seboya, y Piamonte.
9)オランダ。Payses Baxos.
10)フランダース。Condado de Flandes.
11)アルトワ。Condado de Artois.
12)エノー。Condado de Henao.
13)ナミュール。Namur.
14)ルクセンブルク。Luxemburgo.
15)リンブルク。Ducado de Limburgo.
16)ブラバント。Ducado de Brabante.
17)メーヘレン。Marquesado del Sacro Imperio.
18)ホラント。Condado de Olanda.
19)ゼーラント。Condado de Zelanda.
20)ユトレヒト。Senorio de Utrecht.
21)ズトファニア。Condado de Zutphania.
22)ヘルダーラント。Ducado de Gueldria.
23)オーファーアイセル。Overifel.
24)フローニンゲン。Senoria de Groninga.
25)フリースランド。Condado de Frisia.
26)ブリテン諸島。Islas Britanicas.
27)ドイツ。Imperio de Almania.
28)ハンガリー。El Gran Reyno de Ungtia.
29)デンマーク。Dinamarca.
30)スウェーデン。Reyno de Suecia.
31)ポーランド。Estados de la Corona de Polonia.
32)ロシア。Rusia blanca, o Moscovia.
33)ギリシャ(ヨーロッパ部トルコ)。Grecia, o Parte Meridional de Turquia en Europa.
34)アジア全図。Asia.
35)トルコ(アジア部トルコ)。Turquia en Asia.
36)ペルシア。Persia.
37)インド。Peninsula de Indo.
38)ムガール。Mogol.
39)中国。La China.
40)韃靼。Gran Tartaria.
41)フィリピン諸島(日本含む)。Las Islas Philippinas.
42)アフリカ。Africa.
43)アメリカ。America.

「ペータースが1695年に死去し、アントワープに残されたデ・フェルの地図19点の銅板は、またスペイン語の出版物に活用されることになる。1698,1697,1725年に刊行されたドン・フランシスコ・デ・アエフェルデンことフランシスクス・ファン・アエフェルデンのEl Atlas Abreviado、そして、1701年、フェルナンデス・デ・メドラーノ著書再版にも使われた。
 El Atlas Abreviadoは、マドリードで1709年、書籍販売業者のフランシスコ・ラソとそのビジネス・パートナーであるペドロ・ポントンに剽窃される。これはニコラ・デ・フェルの地図19点を収録したが、銅板一式は新たに彫版したものを使い、タイトルがスペイン語になった。表題ページにファン・アエフェルデンの名前はなく、序言でちらりと彼に言及しているだけだ。興味深いことには、1696年発行の権利期限が切れたので10年間の印刷が認められるという著作権免許が第1版に載っている。この版の出版権は、マドリードで1709年6月1日に付与された。しかし、すでにアントワープ版が1708年11月10日に、当地のスペイン当局によって出版を許諾されていた。1711年刊マドリード第2版(本書のこと:引用者註)の表題ページには、Con privilegio en Amberes A costa de Francisco Laso, Mercader de Libros, enfrente de S. Phelipe el Real do Madrid(聖フィリポの前にてアントワープにおける著作権免許により、書籍販売業者フランシスコ・ラソの費用により印刷)と記されていて、問題はさらにややこしくなる。1711年に再版されたものの、現存する部数が少ないことからして、マドリード版地図帳の第1版、第2版とも、出版差し止めになったか、廃棄率が高かったか、ごく少部数しか印刷されなかったかのいずれかだろう。アントワープ版El Atlas Abreviadoのほうはマドリード版のあとも半世紀以上販売が続いたので、ラソとポントンに法の手が伸びたのだろうとしか思えない。1709年、1711年の両マドリード版地図帳はきわめて稀少で、見識あるコレクターたちの垂涎の的になっている。」
(前掲書95〜96ページ)

冒頭の口絵。フェリペ5世を称えるラテン語格言が添えられた本書の特徴を象徴的に示す画。
タイトルページ。複雑な版権関係の交錯が読み取れる。
東界の正座を示す図は非常に美しい。
東西半球の世界図。当然日本も描かれている。
ヨーロッパ全図。当時はスペイン継承戦争の只中で、スペインはフランスと連合して、イギリス、オランダと交戦中であった。
ヨーロッパで最初に記されるのは言うまでもなくスペインである。
フランス。
イタリア。スペイン継承戦争中の主要な戦場となったためか、扱いは大きい。
いわゆる「低地地方」は、スペイン継承戦争にとって最重要地であった。
ブリテン諸島。
アジア全図。右端(東端)に日本の姿を見ることができる。
中国図。朝鮮半島と九州の一部も描かれている。
フィリピン諸島図の左上に別図として日本が描かれている。
  • アジア諸島部テキスト冒頭。日本についての解説。
  • 続き。
アフリカ全図。
南北アメリカ全図。
巻末には地図中に記された地名の膨大な索引が掲載されている。上記は日本についての部分。
当時の装丁を保つ比較的良好な状態。本書はアントワープ版も含めて貴重とされるが、特に本書のように折り込み地図が完備されているものは極めて稀覯。
大きさ的にはポケットアトラスというべき、小さな判型。