書籍目録

『航海・旅行記集成』

チャーチル兄弟 / [カロン]

『航海・旅行記集成』

初版 第1巻(全4巻中) 1704年 ロンドン刊

Churchill, Awnsham & John. / [Caron, Francoys (François)]

A COLLECTION OF Voyages and Travels, Some now first Printed from Original Manuscripts….In Four Volumes….Vol. I.

London, (printed for) Awnsham and John Churchill, MDCCIV(1704). <AB202021>

Sold

First edition. Vol.1 only (of 4 vols.)

4to (20.4 cm x 29.5 cm), Title., pp.i-c, 2 leaves, pp.1-514, 507(i.e.515)-510(i.e.518), 519-539, [540-544], 544-560, 569-584, 561-568(misbrand), 585-813,6 leaves (index), Plates: [4], Contemporary three quarter leather on marble boards.
製本のマーブル紙や革に痛みが見られるが、本文は概ね良好な状態。[ESTC: 006367641]

Information

18世紀を代表する旅行記・航海記集に収録された、知られざるカロン『日本大王国志』英訳抄録と独自の日本地図

 本書は、18世紀のイギリスを代表する旅行記・航海記集成で、日本に関する興味深い記述が収録された書物です。チャーチル兄弟(Awnsham Churchill / John Churchill)は、内乱下のイングランドにおいてオラニエ公ウィレム2世を支持する書物を出版した廉で投獄されたこともある気骨ある出版人で、チャーチル兄弟による出版社は、名誉革命後にウィレム(ウィリアム)3世の公認出版社に任命され、イングランドを代表する出版社となりました。また、オランダ亡命時のロック(John Locke, 1632 - 1704)とロッテルダムで知り合って以降は、彼の主要著作ほぼ全てを手がける出版社となりました。『航海・旅行記集成』は、チャーチル兄弟による出版物を代表する作品の一つで1704年に第1巻初版が刊行されています。予約制で出版されたこの大規模な著作は、予定から刊行が遅れ1732年に続巻が刊行され、以降は増補改訂が繰り返され、最終的には1744年から46年にかけて全6巻構成として完成しています。チャーチルの『航海・旅行記集成』は、ほぼ同時代に刊行されたハリス(John Harris, 1666? - 1719)の『航海と旅行記の完全集成(Navigantium atque Itinerantium Bibliotheca. 1705-)』と競い合う形で刊行されており、結果的に両書は18世紀を代表する旅行記・航海記集成の名著として、いずれも高く評価されることになりました。

 イギリスにおける航海記・旅行記集成に類する書物は、16世期末のハクルート(Richard Hakluyt, 1553 - 1616)による『イギリス国民の主要航海記(Principal Navigations,...1589)』、パーチャス『廻国記集(Purchas his Pilgrimage. 1613)』をはじめとして、歴史と伝統のある分野といえるものです。チャーチル兄弟の『航海・旅行記集成』の特徴は、従来の著作のようにイギリスによる航海・旅行記だけを集めるのではなく、他のヨーロッパ各国でなされた主要な航海記も網羅的に収録することを目的としている点にあります。また、それぞれの航海記・旅行記を収録するにあたって、できるだけ原文書や信頼できる史料を底本とし、必要があれば未公刊資料を新たに翻訳、翻刻して収録しており、関連する地域の最新情報も併せて収録するなど、先行文献にない意欲的な編集方針が取られています。本書序文においてもこうした編集方針についての解説や、それがいかに大変な作業であるかについて述べられていて、それが原因で予定よりも刊行が遅れてしまうことや、費用が当初見込みよりも大きく嵩んでいることなども述べられています。チャーチル兄弟の『航海・旅行記集成』は、こうした大変な苦労の元に刊行されたものですが、その労に報いる形で多くの読者を獲得し、ハリスの『航海と旅行記の完全集成』と並ぶベストセラーとなりました。

 本書が大変興味深いのは、このような意欲的な編集方針で編纂された旅行記・航海記のベストセラー本において、日本についての記述が、独自の日本地図とともに収録されていることです。この地図はフィリピン北武から日本の江戸付近までを描いたもので、日本については、九州、四国、本州の関東付近までが含まれています。地図作成者についての記載はなく、正確な作者は不明ですが、描いている範囲や、日本の輪郭の描き方の点においてあまり類例のない独自の日本図となっています。九州は、「筑後国豊後(Chicokock Bungo)あるいは下島(Ximo I.)」とあり、鹿児島(Cangoxuma)や長崎(Nangasacque)、五島(Gotto)などの地名が記されています。四国は「西国土佐(Sayekock Tonsa)あるいは四国島(Xicoco Island)」、本州(Iapon)は、山口(Amanguchi)、丹後(Tango)、大坂(Osacca)、京(Meaco)、堺(Saccai)、三重(Mia)、駿河(Surunga)、小田原(Odauro)、房総半島(Bosho P.)、江戸(Iedo)と具体的な地名が書き記されています。また、日本だけでなく、近隣諸国との位置関係を表すことも目的としている地図のようで、朝鮮(ただし島とされている)や台湾(Formosa)、中国(China)沿岸部やフィリピンなどがともに描かれています。この日本図は単独の日本図として他の地図帳などに収録されていない、本書にのみの独自の日本図ですが、これまで西洋における日本地図史の研究においてもあまり注目されてこなかったもので、大変興味深いものです。

 さらに、テキストはさらに興味深い内容となっていて、1619年から1641年までの長きに渡って日本に滞在し、オランダによる初期の対日貿易の基礎を築いたカロン(François Caron, 1600 - 1673)の名著『日本大王国志(Rechte Beshryinge Van het Machtige Koninghrijck van IAPAN. 1651)』を大いに参照していることが明らかなものです。『日本大王国志』は、日本についての全31問の設題にカロンが返答する形式で書かれた書物ですが、このうちの第2問に答える際に、カロンは寛永年間に出版されていたと思われる武鑑をもとにして、諸藩の大名の名前と石高、幕閣の名簿を細かく記していて、これらの記述が日本の強大な権力と富についての言説を具体的に裏付けるものとして、当時のヨーロッパに衝撃とともに伝えられました。本書における日本記事では、このカロンの記述がほぼそのままの英訳されて転載されています。また、それ以外の記述についても、基本的にカロン『日本大王国志』の記事を元にしていると思われるもので、実質的にはカロン『日本大王国志』の英訳抄録版と言ってよい内容となっています。

 カロン『日本大王国志』の英訳は、1662年に出版されたマンデルスローの航海記英訳版((The voyages and travells of the ambassadors sent by Frederick Duke of Holstei;...1662)に匿名の形で抄録版が収録されたものが初出と言われ、1663年には、カロン校閲改訂版である1661年版を底本とした英語訳完全版(A true description of mighty kingdoms of Japan and Siam)が出版されています。しかし、本書の記事を見る限り、いずれの英訳とも訳文が異なっていることから、本書のためにチャーチル兄弟が新たにオランダ語原著から英訳した可能性があります。いずれにしましても、カロン『日本大王国志』が、本書にこのような形で英訳されていることについては、カロン研究においても、これまでほとんど知られていなかったことではないかと思われますので、非常に興味深いテキストということができます。

刊行当時、あるいはそれほど新しくないものと思われる装丁で痛みが見られるものの、全体として良好と言える状態。
タイトルページ。全4巻中の第1巻、とあるが、じっさいに全巻が刊行されるのは、これよりかなり後になってからのことである。
イギリスだけでなく、ヨーロッパ各国による様々な旅行記、航海記が収録されている。
100ページにも及ぶ序文において、本書の意図や編集方針、構成、旅行記、航海記出版の意義などについて論じられている。
ブリュワーによるチリへの航海記への付録として日本記事が収録されている。1649年にフランクフルトで出版されたオランダ語からの翻訳、とあるが、この1649年の書物について店主は特定できず、またこの書物に日本記事が収録されていたのか、それともチャーチル兄弟が新たに追加したのかについては不明。
日本関係記事冒頭箇所。
他にあまり類例が見られない独自の日本図が掲載されている。
カロン『日本大王国志』からとったと思われる諸藩各大名の石高と名簿一覧を掲載している。カロン同書の英訳版とも異なる翻訳がなされていることが興味深い。
日本関係記事は、ほぼ『日本大王国志』からのもので、同書の英訳抄録版と言ってよい内容である。
巻末には索引を備える。