書籍目録

『世界宝鑑』第1巻

オルデンビュルガー

『世界宝鑑』第1巻

(第2巻、第3巻が付属) 1675年 ジュネーブ刊

Oldenburger, Philipp Andreas (Oldenburger, Philippi Andreae).

THESAVRI RERVMPVBLICARVM. PARS PRIMA. Continens Regna HISPANIAE, LVSITANIAE; Regna ASIAE; Regnum IAPONICVM; TARTARICVM; CHINENSE; Magni MOGORIS…

Geneve, Samuel de Tournes, M. DC. LXXV.(1675). <AB2019205>

Sold

Together with vol.2 & 3. (i.e. 3 vols.)

8vo (10.0 cm x 16.8 cm), Half Title., Title., 14 leaves, pp.[1], 2-608, 605-608, 609-620, [NO LACKING PAGES], 625-634, 735[i.e.635], 636-827, 42 leaves(Index), Contemporary full leather.
背表紙はじめ革装丁に傷みあり。本文は全体として良好な状態。

Information

カロン、ヴァレニウスらを参照してジュネーブで刊行された、知られざる「日本帝国誌」

 本書は、世界各国、地域の歴史、地理、政治経済、文化などを網羅的にまとめた「世界誌」に属するラテン語の書物の第1巻で、1675年にジュネーブで刊行されています。最終的に全4巻構成となったこの書物の第1巻では、スペイン、ポルトガルについでアジア各国が取り扱われており、その筆頭に「日本王国誌(De Regno Iaponico)」と題して、日本が扱われています。本書執筆当時、ヨーロッパにおける日本情報として最もよく読まれていたカロン(François Caron, 1600 - 1673)の『日本大王国志(Beschryvinghe van het machtigh konigryk Japan.1662*諸版あり)』、ならびにそれを中心にしてラテン語で著されたヴァレニウス(Bernhardus Varenius, 1622 - 1650)の『日本王国記(Descriptio Regni Japoniae. 1649)』などを参照して執筆されており、17世紀ヨーロッパにおける日本情報のあり方を伝える興味深い書物です。

 本書の著者であるオルデンビュルガー(Philipp Andreas Oldenburger, ? - 1678)は、ジュネーブ大学で法学教授を務めていた学者、著述家で、歴史と地理学の豊かな知識を生かして、法制度、政治制度に関する書物を数多く公刊しています。本書は、彼の代表作の一つで、当時のヨーロッパにおいて知られていた世界各地の歴史と地理、文化に関する情報を網羅的に収録しようとしたもので、いわゆる「世界誌」と称されるジャンルの書物と言えるものです。全4巻構成という大部の著作で、オルデンビュルガーの該博な智識を物語ると同時に、当時のヨーロッパにおいて日本を含むアジア地域がどのように理解されていたのかを伝える貴重な文献となっています。

 本書である第1巻は、著作全体の構想と狙いを述べ、先行文献、参照文献などを紹介した序文に続いて、スペイン、ポルトガルが前半(388ページまで)で扱われています。後半(389ページから)は、アジア各国・地域の紹介となっていて、アジア全体の概論に続いて最初に紹介されているのが、日本です。各国・地域の紹介はいずれも概ね同様の構成となっていて、項目別にまとめられた前編と、それ以外の先行文献に基づく当該地域に関する知見がまとめられた後編とからで構成されており、日本についての記事も同様にまとめられています。

 オルデンビュルガーは、日本のことをアジア諸国の中にあって、東部地域最大の王国であると述べ、イエズス会士によってキリスト教が広められたことに言及しています。日本についての参照しうる文献として、まずカロンの報告(『日本大王国志』)を、そしてヴァレニウスの著作(『日本王国記』)を挙げ、オランダの地理学者で西インド会社の中枢にあったラエ(Joannes de Laet, 1581 - 1649)の著作(恐らく『新世界の歴史(Nieuwe Wereldt ofte Beschrijvinghe van West-Indien…1625)』か?)ついても言及しています。日本が数多くの島々からなること、主要な都市が京都(Meaco)と江戸(Iedo)であることを説明してから、近年まで群雄割拠する様々な国々に分かれて恒常的な戦争状態にあったことを紹介し、内裏(Dairi)を巡る権力闘争の歴史を説明しています。宗教事情については、多くの偶像崇拝が広まっているとして、ザビエルに始まるキリスト教布教の歴史を簡単に紹介し、ポルトガルと日本との交易が盛んであったが、オランダ人によって彼らが追い出されてしまったことや、キリスト教が迫害を受けるようになったと説明しています。

 後半では、Luca de Lindaによる日本の人々を紹介した記事の抜粋として、別の日本論が展開されていますが、この Luca de Linda を店主はまだ特定できていません。この記事では日本の人々の気質や文化、坊主(Bonzii)によって運営されている足利学校、比叡山(Frenoiama、日枝山)の学校のこと、仏(Fotoques)や神(Games)、阿弥陀(Amidam)、釈迦(Xaca)といった日本で信仰されている神々や宗教事情、統治機構とその特徴や、日本人起源論と主要都市の紹介など、実に多彩な日本論が展開されていて、いずれも大変興味深い内容となっています。また、16世紀後半から17世紀初めにかけて活躍した思想家、著作家であるボテロ(Giovanni Botero, ? - 1617)の『世界誌(Relazioni Universali. 1591*諸版あり)』と思われる著作からの抜粋とする記事も収録しています。

 全4巻からなる『世界宝鑑』全体のボリュームから見れば、日本を扱った「日本帝国誌」の分量は決して多くはありませんが、日本がアジア地域で最初に取り上げられていることや、何よりその記事内容の水準の高さに鑑みれば、日本関係欧文資料として本書は看過し得ない学術的価値を秘めているものと思われます。長大な企画の一部に日本関係記事が収録されていることや、現存部数が少ないこともあってか、本書を所蔵している国内研究機関は皆無のようですので、これまで注目されていない日本関係史料としても研究すべき課題が多い興味深い1冊と言えます。

 なお、前述の通りオルデンビュルガーの『世界宝鑑』は、全4巻からなる大部の企画ですが、本書には、続刊となる第2巻と第3巻が付属しています。

刊行当時のものと思われる装丁で傷みが見られるが、全体として良好と言える状態。
タイトルページ。
読者への序文冒頭箇所。
目次。393ページに「日本帝国誌」が掲載されていることがわかる。
序文冒頭箇所。
「日本帝国誌」冒頭箇所。アジア諸国の中で最初に取り上げられているのが日本である。
Luca de Lindaによる日本の人々を紹介した記事の抜粋とされている記事冒頭箇所。店主には、Luca de Linda が誰であるのか、この著作が何なのかについて特定できず。
ボテロの著作に収録されている日本関係記事の抜粋も掲載されている。
第1巻と同じ装丁が施された、第2巻、第3巻が付属している。第2巻、第3巻はヨーロッパ諸国を中心に紹介しているため、日本に関する記事は見当たらない。
  • 第2巻タイトルページ。
  • 第3巻タイトルページ。