書籍目録

『ラテン文典 全三書(大文典)』

アルバレス / (天草版『ラテン文典』)

『ラテン文典 全三書(大文典)』

1575年 ヴェネツィア刊

Álvares, Manuel.

DE Institutione Grammatica Libri Tres.

Venetiis(Venice), Iacobum Vitalem, M. D. LXXV.(1575). <AB2022170>

Donated

8vo (15.0 cm x 20.0 cm)*正確には、4to in 8vo imposition. 詳細は下記参照。, 526 pp. *詳細な書誌情報については下記解説参照。, Contemporary parchment, skillfully restored.

Information

天草版『ラテン文典』の底本であるアルバレス『ラテン小文典』の詳細版『ラテン大文典』改訂版

ただいま解題準備中です。今しばらくお待ちくださいませ。

pp.[1(Facsimile Title.),2], 3-54,45(i.e.55), 56-182, [LACKING pp.183-186], pp.187-261, 263(i.e.262), 264(i.e.263), 264, 265, 267(i.e.266), 267-273, 278(i.e.274), 279(i.e.275), 276-350, [LACKING pp.351, 352], pp.353-383, 364(i.e.384), 385-452, NO LACKING PAGES, 457-464, NO DUPLICATED PAGES, 461-516, [LACKING pp.517, 518], pp.519-522, [LACKING pp.523, 524], pp.525, 526.

*本書の版式につきまして、当初「8vo」としておりましたが、ご指摘をいただきまして、正確には、四折りを八折りと同じ構成に仕立てる「4to in 8vo imposition」という版式であることが分かりました。貴重なご指摘、ご教示をいただきましたことに御礼申し上げます。(2023年6月追記)


「キリシタンの日本語文法に直接の影響を与えた文法家は、当時のスペイン最大のラテン文法家で初のスペイン語文法の著者でもあるアントニオ・ネブリハと、イエズス会の標準ラテン文法を著したマノエル・アルバレスである。」

「アルバレスのラテン文法は、イエズス会が標準の文法として、それ以外の教授を禁じたために(当然ながら)イエズス会の日本語文法に強い影響力を持つ。

 (第61条:文法書に使うべきもの。我々の教程は、等しく Emmanuel Alvares 著以外の文法を用いぬものとする。経験上、こちらの方が今は自らの地域では学生により実りをもたらすメソッドであると考える地方総監は、近時ローマ教授法風に直され、総長により認可された Emmanuel文法の方を使うのでもよく、各自の環境に応じて、その他如何様にも工夫して適応させてよいが、但し、Emmanuel の文法教程の全ての力と性質を含むものでなければならない。)
(イエズス会教憲 Ratio atque institutio studiorum 学習の根拠と教程(1591, Roma)19r)

 ここで下線1(近時ローマ教授方風に直された)というのは、(旧文法家達の論に整合させたる新版)とある1584年ローマ版のイタリア語対応『小文典』を指し(Lukács 1986: 123)、これは、その後ヴェネチア版などで再版される。下線2(各自の状況に応じて、如何様にも工夫して適応 adaptare させてよい)とは、教授地の現地語への対応をいうのであり、キリシタン版の『天草版ラテン文典』(1594)は、正にこの adaptatio(適応版)の一つである。標準文法書と言っても、全世界で同一の「検定済教科書」を使った訳ではない。」

「アルバレス『ラテン文典』には、教授用注(Scholion)が大量に付された『大文典』と、初学者への便宜のために、『大文典』から教授用注を大幅に削除した『小文典』の2種が存在する。いずれも、巻1:形態論(名詞・形容詞や動詞の語形変化)、巻2:統語論、巻3:韻律論の3巻構成である。『大文典』諸版(1572、Lisboa)は全247丁(494ページ)、1575年『大文典』改訂版(Venezia)(本書のこと:引用者注)は527ページ、1573年版『小文典』初版は全149丁(298ページ)で、『大文典』の記述の多くが削除されたことが理解できる。
 アルバレス『大文典』は、quarto(四折)、『小文典』は octavo(八折)であることが多い。判型が小さいほど、安価になるため、『小文典』序文で言及された「貧富を問わず、凡ゆる者が手に取れるように」というイエズス会の配慮が反映されていると言えよう。『大文典』『小文典』共に扉に表示される標題が全く同一であり(cf. ジョアン・ロドリゲスの『日本大文典』『小文典』は、タイトルが異なる)、判型に関しても、『天草版ラテン文典』(1594)のように、『小文典』でありながら、quarto(四折)という版本も存在するため、それぞれ内容を見ない限り、『大文典』『小文典』の判別はできない。」
(黒川茉莉 / 豊島正之「キリシタン時代の文法書」岸本恵 / 白井純(編)『キリシタン語学入門』八木書店、2022年、21-24ページより)

「この文法書は、教師、且つ学者であったアルバレスが、従来のラテン語教育に疑問を抱き、古典文法書と当時のそれとを見直した末に、起草されている。その特徴の一つは、イエズス会「学事規定」Ratio Sturioru に沿って、ラテン語を漸進的に学習出来るように考えられている点である。第1巻の名詞の曲用・動詞の活用は「下級」クラスと「下級中の上位」学生に、第2巻の構文論と文体は「下級中の上位」と「中級」クラスのために、最後の第3巻(韻律及び修辞法)は文法コースの「上級」学習者に当てられるように構成してある。
 アルバレス文典は、当時のラテン語教育の必須の参考図書となり、イエズス会教育の象徴ともなり、而後200年余りに亘って唯一無二の最高のラテン文典とされ続けた結果、アルバレス文典についての種々の論文・書籍も書かれ、アルバレス文典の翻訳・解説・注釈も出版された。(中略)
 イエズス会外部からも、アルバレスのラテン語文典の成果を強調する声がある。20世紀初頭に、ランケは「(アルバレス文典によって)最高の結果が見られ、他では2年費やして覚えることを、(その教授法で)学習する学生は半年で取得する」(ランケ1900:22)とし、同時期のプロテスタント教会のナウマンも「イエズス会士は17世紀を代表するラテン語の巨匠達である」(1965:75)としている。」
(カルロス・アスンサン / 豊島正之(翻刻・解説)『天草版 ラテン文典』八木書店、2012年、解説(和抄訳)282,283ページより)