書籍目録

「1614年、15年の日本王国における信仰の勝利」

ロペ・デ・ベガ

「1614年、15年の日本王国における信仰の勝利」

(『ロペ・デ・ベガ全集』第17巻所収) 1778年 マドリッド刊

Lope de Vega.

TRIUMPHO DE LA FE EN LOS REYNOS DEL JAPON, por los años de M.DC.XIV. y M.DC.XV….[In] (COLECCION DE LAS OBRAS SUELTAS, ASSI EN PROSA, COMO EN VERSO, DE D. FREY LOPE FELIX DE VEGA CARPIO, DEL HABITO DE SANJUAN. TOMO XVIII).

Madrid, Don Antonio de Sancha, M. DCC. LXXVIII.(1778). <AB202221>

Sold

4to (16.8 cm x 24.5 cm), 1 leaf(blank), pp.[I(Title.), II], III-XXI, pp.1-236, 337(i.e.237), 238-274, 375(i.e.275), 276-476, 377(i.e.477), 478-485, 1 leaf(blank), Contemporary full brown leather.
旧蔵者による装丁が施されており、表紙に箔押し、タイトルページ裏面(空白ページ)に押印あり。

Information

ルネサンス期に花開いたスペイン黄金世紀劇を代表する劇作家による日本の殉教者を題材にした物語

 本書は、16世紀から17世紀にかけて黄金時代を迎えつつあったスペインにおいて隆盛を誇った「スペイン黄金世紀演劇」とも称される時代に活躍した劇作家を代表するロペ・デ・ベガ(Lope de Vega, 1562 - 1635)が、1618年に刊行した作品の第3版にあたるもので、1778年に刊行されたロペ・デ・ベガの全集第17巻に収録されています。1614年から1615年にかけて禁教令を受けて迫害が激化していった日本の状況を題材にした作品で、シェイクスピアにも並ぶ偉大な劇作家として現在も高く評価されている人物が手がけたというキリシタン関連資料の中でも異色の作品といえる大変興味深いものです。

 1614年に江戸幕府によって全国規模での禁教令が発せられたことで、長崎をはじめとする日本各地でキリシタン迫害、殉教事件が相次いで勃発することになり、こうした事件の詳細は当時日本に滞在していた宣教師たちによって随時報告書が送られていました。こうした報告書は、検閲を経た上で直ちにヨーロッパ各地で刊行され、日本での様子が同時代のヨーロッパの読者に速報的に伝えられることになります。本書は、こうした刊行物の一つに位置付けられるものですが、何と言っても当代随一の劇作家で当時すでに多大な名声を得ていたロペ・デ・ベガによって手掛けられていることに大きな特徴があります。こうした稀有な作品が実現した背景には、ドミニコ会を中心とした托鉢系修道会が、より多くのヨーロッパの読者に日本の状況を知ってもらい、ひいては自身らの活動の意義をより認識してほしいとの思惑もあって、ロペ・デ・ベガに依頼がなされ、信仰に篤く、日本での状況に心を痛めていたとも言われる彼がこれを快諾した、という事情がありました。

 ロペ・デ・ベガはイエズス会の学院で教育を受けたことからイエズス会や同会が盛んに行っていた演劇に影響を受けていると言われていますが、彼が本書を執筆するに際して参考にしたのはむしろドミニコ会を中心とした托鉢修道会士らによる日本からの報告書類であったと言われています。ロペ・デ・ベガはドミニコ会のオルファネール(Jacinto Orfanel, 1578 - 1622)による日本報告書を主に参考にしながら本書を執筆したと言われており、有馬、有家、口之津といった九州各地における迫害状況を取り上げながら、犠牲となった人々の名を列挙したり、彼らを讃えるラテン語詩を交えつつ、また架空の信徒と棄教を促す知人との対話篇などを挿入しながら本書の物語を展開させています。

 同時代の日本報告に基づくとはいえ、当然本書はロペ・デ・ベガによる創作も多分に盛り込まれていることから、本書の内容をそのまま史実とすることはできませんが、日本における迫害状況が激しくなりつつあったことが、本書のように当時を代表する劇作家によっても同時代のヨーロッパの人々に伝えられていたということは大変興味深いことと言えるでしょう。

 なお、本書については下記の著作において翻刻板が収録されており、また編者による詳細な研究論文が収録されており大変参考になります。

J. S. Cummins (ed.)
Triunfo de la fee en los reynos de Japón.
(Colección Támesis, serie B. Textos; 1)
London: Tamesis Books.
1965