書籍目録

『日本のポケットガイド』

ジャパン・ツーリスト・ビューロー / 杉浦非水(表紙)

『日本のポケットガイド』

刊行年不明 東京刊

(Prepared by the)Japan Tourist Bureau / Sugiura, Hisui (cover illust.)

POCKET GUIDE TO JAPAN.

Tokyo, not dated. <AB202136>

Sold

pp.i-xi, 1-153, (some folded)Plates:[46], Original pictorial card boards.

Information

6種類存在する同名英文ガイドブックのうち、唯一刊行年表記がないもの

 この英文ガイドブックは、ジャパン・ツーリスト・ビューローが国際観光局や鉄道省と協力して1925年から1939年にかけて随時改訂を施しながら出版し続けたものです。欧米観光客向けに日本の観光情報をコンパクトにまとめたガイドブックで、杉浦非水による魅力的な表紙や数多くの写真も交えて、書物それ自身としても魅力的になるよう工夫された作品です。

 本書刊行以前にビューローや鉄道省は、さまざまな「JAPAN」と題した英文ガイドブックやブックレットを刊行していますが、本書と同じ『日本のポケットガイド』の表題では、1920年代半ばから1930年代末にかけて少なくとも合計6種類もの版が存在しています。これらの変遷をCiNii上の書誌情報からまとめてみますと下記のようになります。

①1925年
発行主体:鉄道省 / ビューロー / 日本ホテル協会
Japanese Government Railways / Japan Tourist Bureau / Japan Hotel Association.
Pocket guide to Japan, 1925.
[Tokyo]
pp.i-iv, 1-132, Plates:[8].
*富士を背景とした松原のイラスト表紙

②1926年
発行主体:鉄道省 / ビューロー / 日本ホテル協会
Japanese Government Railways / Japan Tourist Bureau / Japan Hotel Association.
Pocket guide to Japn.
Tokyo, 1926.
pp.i-vi, 1-86, (some folded)Plates: [53].
*桜の咲き誇る里山の風景のイラスト表紙、和綴本を模した紐綴じ。

③1929年
発行主体:鉄道省
Japanese Government Railways.
Pocket guide to Japan.
Tokyo, 1929.
pp.84.
*①とほぼ同じ富士を背景とした松原のイラスト表紙

④1935年
発行主体:国際観光局 / 鉄道省
Board of Tourist Industry / Japanese Government Railways.
Pocket guide to Japan: with special reference to Japanese customs, history, industry, education, art, accomplishments, amusements, etc., etc.
Tokyo, 1935.
pp.i-xv, 1-182, (some folded)Plates: [69].
*濃紺の背景に扇のイラスト表紙

⑤1939年
発行主体:国際観光局 / 鉄道省
Board of Tourist Industry / Japanese Government Railways.
Pocket guide to Japan: with special reference to Japanese custom, history, industry, education, art, accomplishments, amusements, etc.
Tokyo, 1936.
pp.i-vii, 1- 138, (some folded)Plates:[23].
*紅葉と水鳥のイラスト表紙

⑥刊行年表記なし(本書)
発行主体:ビューロー
Japan Tourist Bureau.
Pocket guide to Japan.
pp.i-xi, 1-153, (some folded)Plates:[46].

*上記のうち、①(1925年)③(1929年)④(1935年)⑤(1939年)については、荒山正彦『近代日本の旅行案内書図録』創元社、2018年、84-85頁を参照)

 上記のように少なくとも6種類が存在する『日本のポケットガイド』ですが、発行主体が刊行年によって変化しており、当初はビューローと日本ホテル協会、鉄道省の3機関が合同で発行していたものが、国際観光局の設立が決定した1929年以降は、同局(と鉄道省)が発行主体となっています。大きさは基本的に長編19センチで変わりはありませんが、その構成はかなり変更されているようで、また製本方法についても②(1926年版)は和綴本を模した紐綴じとしたり、また表紙をちりめん紙としたりと、様々な工夫と改良がみられます。

 本書は上記6種類の中で唯一刊行年表記の記載がないもので、正確な刊行年を特定することが困難です。ただ、1929年以降は発行主体が国際観光局に変わっていくことに鑑みると、それ以前に刊行されたものではないかと思われます。そうしますと本書は、②(1926年版)と③(1929年版)との間(1927年〜1928年)、あるいは、①(1925年版)以前(〜1924年)のいずれかに刊行された可能性が高いのではないかと思われます。また、①(1925年版)と②(1926年版)は、ビューロー単体の発行でなく、鉄道省と日本ホテル協会が発行主体となってい流ことに鑑みますと、それ以降にビューローだけが発行主体になることはいささか不可解な感がありますので、そうしますと本書は、①(1925年版)以前、つまり『日本のポケットガイド』最初の版に該当する可能性があります。現時点では本書の刊行年を断定することは困難ですが、前後の版との比較や、本書の読解によって、より正確な推定を行うことは可能であると思われます。

 なお、本書はフランス語をはじめとして各国語が存在していることもわかっていますので、それらの書誌情報の調査についても今後改めて行う必要があります。